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モガ(モダンガール)に憧れるプロレタリア文学

『滞空女 屋根の上のモダンガール』パク ソリョン  (翻訳) 萩原 恵美

あそこに人がいる。 「怖くはないんですか」 「誰か死にはしまいかと怖いです。それが自分だったら怖いし、他の誰かでも怖いです。人が死ぬことを何とも思ってないやつらが怖いです」姜周龍(カン・ジュリョン )1901~1932 1931年、平壌の小高い丘に建つ楼閣・乙密台の屋根に登り、朝鮮の労働運動史上はじめて「高空籠城」と呼ばれる、高所での占拠闘争を繰り広げた女性労働者。 愛に生き、波瀾に満ちたその半生を描く。 第23回ハンギョレ文学賞(2018年)受賞作。

NHKラジオ「カルチャーラジオ 文学の世界 “弱さ”から読みとく韓国現代文学」で紹介された韓国文学。

カルチャーラジオ 文学の世界“弱さ”から読みとく韓国現代文学 - NHK (12)喪失と再生の老年 【出演】翻訳家…小山内園子 http://www4.nhk.or.jp/P1929/x/2023-03-23/06/74672/3656141/

日本併合時代に夫の後を追って民族独立運動にかかわる姜周龍(カン・ジュリョン )は、民主化運動の中にも男女差の中にある不平等を知る。日本でも学生運動の中で女子は食事を作り作戦会議は男だけというのもあったという。

あと語りの喜劇性も日本のプロレタリア文学と違い柔らかい口調になっている。5歳年下の15歳の美少年の夫とかライトノベルかと思わせる。主という古風な言い方も翻訳者を含めて上手いと思う。姜周龍がバリバリの活動家というよりは、モガ(モダンガール)に憧れる婦女子というのもライトな感覚だし、下宿先の娘オギとの同性(姉妹)的な関係や同じ職場の子持ちのママのサミとのエピソードはスシターフッド的に描かれている。

姜周龍は自分の為というよりもほとんど他者のために身を犠牲にするヒロインなのもファンタジー的に成功の要因か。例えば夫にしても後に出てくる共産党の幹部にしても、姜周龍と対立させながら共闘していくという民主化運動の根本のところはきっちり描いているように思える。そこが喜劇的な部分なのかもしれない。悲劇ばかりの物語じゃないところにこの小説の面白さがある。


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