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『張り込み』は垣間見(『源氏物語風』)メロドラマだ

『張込み』(1958年製作/116分/日本)監督:野村芳太郎 出演:大木実、宮口精二、高峰秀子


小説新潮所載の松本清張の同名小説の映画化で、兇悪犯を追う刑事の姿を描いたセミ・ドキュメンタリ篇。「伴淳・森繁の糞尿譚」のコンビ、橋本忍が脚色、野村芳太郎が監督した。撮影も同じく「伴淳・森繁の糞尿譚」の井上晴二。主演は「淑女夜河を渡る」の大木実、高千穂ひづる。「その夜のひめごと」の宮口精二、「喜びも悲しみも幾歳月」の高峰秀子、田村高廣。ほかに松本克平、藤原釜足、浦辺粂子、多々良純、川口のぶなど。

松本清張の数々の傑作映画を制作した野村芳太郎監督の最初のヒット作だという。助監督に山田洋次、脚本は橋本忍。同時撮影された大曾根辰夫『顔』も松本清張作品で主演が大木実だった。当時は映画は全盛期だったのか、佐賀のロケといい見どころが多くある。

ドラマとしては犯人を追う刑事が、犯人の元恋人である高峰秀子演じる主婦を張り込んで監視するのだが、ヒッチコック『裏窓』(1954年)とかの影響があるのか?旅館の二階から平凡な主婦を監視するのシーンばかりなのだが、緊張感がある。主婦役の高峰秀子も薄幸な主婦なんだが、演技が上手いのか飽きさせない。その旅館の女将が浦辺粂子などの刑事とのやり取りも喜劇的な要素もあり、サスペンスの中にそういうシーンを織り込むなどやはり脚本がいいのかもしれない。

映画は横浜から始まるのだが当時の街の様子や駅の様子が面白い。旅館は観たことあるようなセットだが、九州佐賀の観光地映画とも言えるかもしれない。戦後の地方都市の町並みも面白くこのロケ撮影も貴重な映像となっているような、地方都市の祭りや田舎の自然も興味深い。今では映画のロケ地巡りとかやる人が多いだろうが、この頃はなかなか観光地にも行けず(新婚旅行とか)、映画がそうした娯楽だったのだろう。

なによりも夏の暑さの描写が見どころになっているような。その暑さの中で張り込みをする刑事の執念というドラマなのだが、黒澤監督『野良犬』の尾行シーンを思い出させたりする。単純なストーリーだが、サスペンスであり観光映画でもある。その映画の脚本もよく、その後二時間もので何度もTVドラマ化されているのも頷ける。松本清張が原作よりいいと褒めたようである。松本清張ドラマを決定づけた映画かもしれない。

後半(ほとんどラスト近くだが)温泉地でのメロドラマ。それを垣間見(覗き見)する刑事(物語として『源氏物語』のメロドラマ性を踏襲しているのかも)。刑事はカメラの視線であり、観察映画とも言える。地方都市での平凡な主婦と殺人犯の元恋人とのメロドラマだった。都市のゴミゴミした人の群れの暑苦しさから温泉地での故郷感。その対比が見事なのである。それは高峰秀子の薄幸な主婦から夢見る女への変化。そしてそれが刹那の夢であることを描くのである。見事すぎる映画。



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