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老子から道教へは、権力者の道

『道教思想10講 』神塚淑子(岩波新書)

老子の「道」の思想を起点に、古代神仙思想、後漢末の太平道と五斗米道、六朝知識人の修養法など、さまざまな思想・運動をとりこみながら形成された道教。その哲学と教理を、「気」の生命観、宇宙論、救済思想、倫理・社会思想、仏教との関わり、日本への影響などの論点からとらえる。丁寧なテキスト読解に基づく総合的入門書。

岩波の10講シリーズは入門書というより専門書に近い。素人にはいらない知識ばかり書かれていた。ただ「道教」が『老子』や『莊子』だけじゃなく、鍛錬法や神仙思想につながっていて、中国の根本思想を形作っていることが良くわかった。日本の神道の根源には「道教」があると思った。

道教は、老子から始まると思われがちだが、実は老子が実在したかどうかはわからず、司馬遷『史記』の記述から戦国時代にいたであろうとされる。道教が広まったのは黄巾の乱で太平道(道教の一派)の信者が教祖の張角が広めたとされる。黄巾の乱は、最初の宗教的な反乱とされ、世が乱れた時に民衆側から超人的な五行思想が出てきたのである(乱世に出てくる宗教改革の流れか?)。

神仙思想は、仙人の世界。それは『ドラゴンボール』の世界だった。「気」が「元気」になってパワーになる。天界も仏教より多く「三十六天説」。階層になっていて各階に王がいる。このへんは桃源郷のようなユートピア思想にもなってきて小野不由美『十二国記』の世界観。日本のアニメとも相性がいい。

唐の玄宗によって「老子」の注釈書がまとめられたのである。それらが「莊子」と共に科挙の官吏登用に用いられたので広まっていった。権力側になるとそれまでのちゃらんぽらんな『老子』では済まされないので、神仙思想とか鍛錬法が出てきた。自然のままでいいでは、何もするなということだから、仙人に成るぐらいの努力せよと。

神仙思想は、葛洪『抱朴子』によって、気(体術身体訓練が神仙になれるとする)というような民間信仰化していく。もともと自然信仰なものなので、二つの方向(根本思想=道、神仙思想=気)になっていくのだ。

道教の仏教化は、「空」を「無」、「菩薩」を「道」と翻訳したように、すでに中国では根本思想として、儒教や道教が根付いていたので、外国思想の仏教を入れるのに道教化して、道教の下部構造として広めていく。仏教的なものが広まってもあまりよしとしなかったのは、宗教は権力に反抗するからだろうか。仏教の民間信仰的なものは、道教の民間信仰的なものと相性が良かった。

もう一つ鬼の世界。鬼は人間から仙人になる過程で、仙人になりそこなった者が鬼になる。人間からは直接仙人になれないので、鬼の道を通るということらしい。人界→鬼界→天界という階層世界。このへんになると『老子』の考えとは完全に外れていく。

それと文化面では、陶淵明の桃源郷のユートピア世界、李白は道教の漢詩を作っていた。文化面で影響を与えた詩の世界がある。この頃の道教の神仙思想を受け継いでいた描かれた水墨画の世界。だから日本のアニメとも相性がいいはずだ。



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