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沖縄を観る(三上智恵のドキュメンタリー)

『標的の村』(2013)監督三上智恵

米軍基地にオスプレイ配備を廻る沖縄住民の闘争ドキュメンタリー。ヘリポート工事阻止する為に座り込みしたら国に争訟された。驚くのはその場にいなかった7歳の娘までも訴える裁判。権力ある側が個人を訴えるSLAPP裁判というそうだ。カフカ以上にすごいことになっているのだ、この国は。

その沖縄住民の闘い方もすごい。普天間にある米軍基地ゲートを封鎖するという実力行使。抗議のデモなんだが、そこに警察が排除にやってくる。自家用車の中に籠城する老夫婦、沖縄で争っている現状を訴える女性の悲痛の声、沖縄民謡のプロテスト・ソング。涙腺ダダ漏れ状態になってしまった。

このドキュメンタリーは琉球朝日放送の女性アナウンサーが監督。地方のTV局も頑張っている。オスプレイのニュースも切れ切れに放送されるよりよくわかる。普天間封鎖はまったく知らないところだった。

『標的の村』という題名は、ベトナム戦争当時にゲリラ戦のシミュレーションとして沖縄の高江村住民がベトコン役をさせらたということ、そして今も村を囲むようにして模擬飛行訓練が行われている、実践さながら低空飛行で村の上空を飛ぶわけだ。そこに出来の悪いオスプレイ(事故率最悪)も訓練するという、まさに標的としての村。(2013/11/14)

関連書籍

ジョン・W・ダワー,ガバン・マコーマック『転換期の日本へ―「パックス・アメリカーナ」か「パックス・アジア」か』

世界的大家が見る、日本の過去・現在・未来
領土紛争、沖縄と基地、憲法改正、集団的自衛権、核・原発、歴史認識問題など、未解決の課題が山積する中、東アジア情勢は一層その緊迫度を増している。日本の選択はどこにあるのか。これまでと同様に米国への「従属」を続けるのか、アジア中心の新たな安全保障体制を構築するのか、それとも……。戦後日本の歩みに限りない共感を示す、二人の歴史家からの日本へのメッセージ。

1951年の講和条約は、日本の戦争被害国が参加していてないアメリカによる片面条約であったこと。それによって基地問題など日本は占領時と変わらないアメリカの属国となっていく。そうした中で中国の台頭と共に危機的状況になりつつあるというのだが、領土問題にしてみれば排他的経済水域(海の領土)に関して言えば日本は世界第六位で中国はそれほど有していない。それと台湾問題における過去の中国への日米の封じ込めが根にあるという。また今のアメリカの関心は日本より中国にある。

日本がアメリカの属国でいる限り中国もなかなか手を出しにくに状況にあるとは思うが、最近の安倍のナショナリズム的な発言もアメリカの属国であるということを前提としているから、アメリカからは虎の威を借りる狐みたいな感じで軽蔑されてしまう。オバマにははっきりと態度で示されている。

この本では辺境というのではく海運貿易の中心としてかつて軍隊を持たなかった琉球の姿として「パックス・アメリカーナ」の反对を行く共生の道を探る「パックス・アジア(東アジア共同体)」への取り組みに注目する。

実際は中国囲い込みの戦略で沖縄意外の島々が米軍の基地候補になったり自衛隊の基地化されようとしている。こういう提言をする人が日本人じゃなくてアメリカとオーストラリアの人だと思うと日本はつくづく属国なんだなと思う。(2014/03/22)

『戦場ぬ止み(いくさばぬとどぅみ)』(2015)監督三上智恵

「いくさばぬとどぅみ」となかなか言えないのでチケット買うのも苦労したけど、映画館はおばちゃんおじちゃんで結構混み合っていた。雨の木曜なのに。たぶん『標的の村』を観て、三上智恵監督の映像に共感を抱いた人が多く集まったに違いない。

例えば菅原文太の最後の出演作で名セリフを残した映画と記憶されるかもしれない。坂田明の「勝利を我らに」の名演が聴けるとか。Coccoのジュゴンの泳ぐジュゴンと珊瑚のナレーターがあったとか。そんなことを含めても85歳のオバアの沖縄戦の話と身体を張ったデモには涙を禁じ得ない。

三上智恵監督はけっこうあざといのかもしれない。普通の対立するドキュメンタリーでもないんだよね。最初にデモ活動している父と息子と双子の娘の映像で家族を映す。辺野古埋め立て反対をアピールする女の子笑顔に米兵も思わず可愛いねと言ってしまう。そこで彼女の気持ちを聞くのだ。

道路の反対側に警察がいて怖いけど笑顔だったら大丈夫だろうと笑顔を作っていると女の子がいう。オバアの話も親戚話のように聞く。防空壕で火炎放射器でやけどして米兵に捕まり、火傷の母を毒殺されそうになって(沖縄人に与える薬はないから毒殺するとか)逃げてきた道をもう一度一緒に訪ねていく。

圧巻なのは機動隊に抗議する母親のシーン。前回もそんなシーンがあった。沖縄の家族が二手に別れて対峙している構図を見せている。明らかに機動隊の青年の戸惑いの表情を映し出す。漁師のオジさんはもう金を貰ったから賛成派なんだが、それでも喧嘩ばかりしているのではなく一緒に新年を祝ったりする。

沖縄の人が体制側と反対派と分裂しているけど(これは今のロシアですね)、その中に家族の構図を描くこと、ホームドラマで涙してしまうようなシーンがあるのはその為かもしれない。その向こうに霞ヶ関があるわけだった。そうしてまた戦争が沖縄に持ち込まれる。(2015/07/23)

『沖縄スパイ戦史』( 2018)監督三上智恵

陸軍中野学校出身のエリート将校が沖縄戦で地元の少年たちを組織して、スパイ活動やゲリラ戦をしていた。生存者の当時15歳だった人のインタビューはリアル「エヴァンゲリオン」だった。戦後は精神崩壊を起こして座敷牢に閉じ込められたとか。村人をスパイと疑って斬首したとか。

将校は最初はかっこいい頭も坊主ではなくポマードでオールバックにした制服も立派な兄貴分的存在で、面倒見のいい将校に感化されていく。そして村の青年団なんかは軍国主義的になっていく。そこに反抗的な者や外国帰りの者はスパイにされていく。軍の秘密を知りすぎた女子とか。

今の反基地運動の沖縄を二分するような、いや日本に従わざる得ない状況で、村人同志の対立や対立者をスパイに仕立てて排除してしまう。それと人民を守る戦争ではなく、国体を権力者のための戦争だということ。村人は邪魔な存在として、マラリアの島に隔離され亡くなっていく。

戦後、エリート将校が懺悔のために沖縄を訪問するのだが息子を亡くした母親に「どうしてあんたが生きているのか」と問い詰められいた。それが沖縄の母の感情だろう。将校は毎年ソメイヨシノの苗木を送ったが根付くことなく枯れてしまったという。この話は日本と沖縄との関係を象徴しているのだ。(2018/08/20)

関連映画

沖縄の民』(日本/1956)

『劇映画 沖縄』(1969/日本)

関連書籍


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