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小人のシラノは恋のキューピットか?

『シラノ』(イギリス/アメリカ/2021)監督ジョー・ライト 出演ピーター・ディンクレイジ/ヘイリー・ベネット/ケルビン・ハリソン・ジュニア/ベン・メンデルソーン
解説/あらすじ

解説/あらすじ
物語の舞台は17世紀フランス。 剣の腕前だけでなく、優れた詩を書く才能をもつフランス軍きっての騎士シラノは、仲間たちからも絶大なる信頼を置かれていたが、自身の外見に自信が持てず、想いを寄せるロクサーヌに、心に秘めた気持ちをずっと告げることができない。そんな胸の内を知らないロクサーヌはシラノと同じ隊に配属された青年クリスチャンに惹かれ、こともあろうにシラノに恋の仲立ちをお願いする。複雑な気持ちを抱えながらも、愛する人の願いを叶えようとするシラノは、溢れる愛情を言葉で表現する才能がないクリスチャンに代わって、自身の想いを文字に込めて、ロクサーヌへのラブレターを書くことに…。果たして、三人が求める純真な愛の行方は――。

原作エドモン・ロスタン『シラノ・ド・ベルジュラック』はジャン・ポール・ベルモンドで舞台化され、ジェラール・ドパルデュー主演で映画化されたのが有名で、「鼻デカ・シラノ」だったが、今回はピーター・ディンクレイジ演じる「小人のシラノ」だ。それもミュージカル!

ピーター・ディンクレイジは小人症というハンデをものともせず、最近でも『パーフェクト・ケア』のマフィア役を好演していた。見事な演技である。

原作の戯曲は、韻文で書かれておりシェイクスピアや古典戯曲のスタイルなのである。だから、ミュージカルにするのは正解だった。シラノは騎士であり詩人なのだが異形の人。だからヒロイン・ロクサーヌに片思いだった。その気持をロクサーヌが一目惚れした青年軍人クリスチャンの代筆の恋文で表現する。歌は、ラブ・レター(ラブ・ソング)なのだ。

異形の人シラノはキューピット(仲介)役になるのだが、仲介役は恋文の脚本家とするならば、演じるのは美青年クリスチャンという役のラブストーリーなのだが、脚本家がその使命を忘れ役者に成り代わるのか?というメタ・フィクション的な喜劇でもある。最初のシーンで、劇場で道化役者を大根役者と罵声を浴びせ舞台を壊してしまうのはシラノである。

そして喜劇はシェイクスピア『ロミオとジュリエット』のパロディとなり、やがて戦争に駆り出される騎士と兵士の宿命の悲喜劇のドラマになっていく。戦場から出される手紙(シラノだけではなく、若い兵士の家族への手紙だったり)のシーンは、ウクライナに侵攻するロシア兵の悲劇とも重なっていく。

喜劇だけど、書簡文学(文学の初期形態)の一面もあり、感動的な歌と詩で魅せるというミュージカル映画になっているのも、描き方が上手い悲喜劇。ただ主人公が小人でミュージカルだから観客を選ぶかもしれない。ミュージカル好きには、感動的な映画だ。


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