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戦傷の刺青の花秋の風

『夕霧花園』(マレーシア/ 2020)監督トム・リン 出演リー・シンジエ/ 阿部寛/ シルヴィア・チャン/ ジョン・ハナー


解説/あらすじ
1980年代、マレーシアで史上二人目の女性裁判官として活躍するユンリンはキャリアアップのため連邦裁判所事を目指していた。かつて愛した中村がとある財宝にまつわるスパイとして指弾されているのを知り、彼の潔白の証拠を探すことを決意する。ユンリンにとって忘れることのできない約30年前の記憶を手繰り寄せ、想いが交差していく――。

原作はブッカー賞でノミネートされたり、マンアジア文学賞と歴史小説のウォルタースコット賞を受賞したマレーシアの作家タン・トゥアンエンの小説『The Garden of Evening Mists』で原作がいいので映画の展開も面白いです。最後の謎の解明とか見事な脚本。それでいて日本人の戦争犯罪もきっちり描いている。従軍慰安婦と死の行進は描かれているけどそれがテーマではない。ただゲリラは共産党で悪者という反共史観のマレーシアのブルジョア映画ですけど。

まあブルジョアのスノッブ(英国贔屓)な物語でゲリラ側を応援したい自分としては、イギリスに支配されていいのかよ、と思うのです。イギリスの上流階級の真似をして、その中での日本庭園でした。

第二次世界大戦で日本が負けて戦争犯罪人として処刑される中で天皇の庭師の男は戦争犯罪人なのかということで調査が入る。この調査が終戦後と1980年と錯綜していてわかりにくい部分もありますが、メインストーリーは戦後です。日本兵に妹を殺されたが(慰安婦として最後は証拠隠滅のために)、妹は京都で見た日本庭園をマレーシアの庭に作るのが夢だった。妹のために日本庭園を作りたいと願うヒロインが庭師の男に弟子入りみたいな感じになる。そして複雑な恋愛関係。

刺青を入れたりして、谷崎潤一郎かよと思ってしまった(しかし、この刺青は後の事件解明の伏線になっています)。そういう日本の「陰翳礼讃」的な耽美主義である男と女の関係性は憎み合っているが愛しているというSM的な物語。刺青も愛のメッセージだったのか、罪の意識だったのか、二面性の意味があるのです。

戦争ミステリーの中にラブ・ストーリーを絡ませたブルジョア映画ですね。黒沢清監督『スパイの妻』に似ているかも。


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