見出し画像

喜劇仕立ての「苦い涙」

『苦い涙』(2022年/フランス)監督・脚本:フランソワ・オゾン 原作:ファスビンダー 出演:ドゥニ・メノーシェ、ハリル・ガルビア、イザベル・アジャーニ、ハンナ・シグラ

女同士の愛を描いたファスビンダーの映画を、男同士の恋愛劇に改変したフランソワ・オゾンの野心作。50年の時を経て、主人公の母親をハンナ・シグラが演じている。

ファスビンダー監督『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』のリメイクなのだが、女性主人公(ファッションデザイナー)から男性主人公(映画監督)にしたことによって、ファンスビンダーの実像に近づいていてようなオマージュ的でもあるが批評的映画(批判ではない)でもあるように思える。

むしろストーリーはこっちの方がわかりやすく面白いように感じた。それは喜劇仕立てであるのと大女優という実在のイザベル・アジャーニを起用していることもあるかもしれない。

イザベル・アジャーニは伝統のコメディ・フランセーズ(1680年からのモリエーヌ喜劇を継ぐ劇団)出身の才女であり、数々の賞を受賞している女優であるのだが、彼女の履歴そのままをパロディー化させたようなところがあった(ハリウッド進出失敗とか)。イザベル・アジャーニのファンだったのでくすくす笑ってしまった。彼女は喜劇女優としての演技が出来る人でこの役は彼女のために設けられた言ってもいいかもしれない。

しかし中心になるのはある映画監督のプライベートな関係で、精神を病んでいく様子は『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』と同じなのだが(ほとんど一緒のストーリーと考えてもいいかもしれない)、男にすることで滑稽な喜劇として変わっていく。それは悲劇を喜劇(批評)にしたフランソワ・オゾンの力量なのだと思う。ラストは一人孤独な映画監督を映し出す感動する映画になっていた。

同性愛という今日的ものや、薬物やアルコール依存症の精神破壊やなにより監督業の孤独さを描いていたのか。その部分にオゾン監督のファスビンダーに対するリスペクト(オマージュ)が込められていたのだと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?