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手に負えない恋する人が死んだら本望だ

『マノン・レスコー』プレヴォ , 野崎 歓 (翻訳) (光文社古典新訳文庫)

将来を嘱望された良家の子弟デ・グリュは、街で出会った美少女マノンに心奪われ、大都市パリへの駆け落ちを決意する。夫婦同然の新たな生活は愛に満ちていたが、マノンが他の男と通じていると知り……引き離されるたびに愛を確かめあいながらも、破滅の道を歩んでしまう二人を描いた不滅の恋愛悲劇。待望の新訳!

今月はフランス文学特集ということで、プレヴォ『マノン・レスコー』を読んだ。光文社新書『文学こそ最高の教養である 』の「フランスの扉」の最初がこの作品である。かつて(二十代)で読んだときと印象が随分違う。

今読むと一ミリも感動しない。最初にマノンに裏切られた時で諦めろよ、と思ってしまう。それを若さゆえ(主人公は17歳だった)か金の力でなんとかマノンを引きつけようとするが社会的制裁もあって自由に行かない。確かに若さゆえにそういう恋愛もあるのかもしれない。

でも監獄に入れられたらそこで諦めるだろうな。意地になってしまうのか?ピストルで看守を撃っているのだ。それは元修道僧(修道僧を目指す学生。実際にプレヴォは修道僧だった)なら大いに反省すべきだろう。友人の修道僧との対話で恋愛は自然だから神の定められた道なのだという道理が面白い。でもそれを金で解決しようとしている。貴族だから出来ること。

解説にでは、プレヴォは序文でこれは教育のための道徳書だと書いている。実践的に若者の見境なく恋に突っ走る姿を諌めているのだろう。だから、大人になって読んでしまうと若者の無謀ばかり目につく。

ただそういう無謀な若者が、ヨーロッパでは生きられないとアメリカに行くということだ。カフカ『失踪者』でもヨーロッパで良からぬことをして、父と諍いを起こして叔父を頼りにアメリカに行く。ここでは罪人としてアメリカに島流し状態になるのだが、その地で自由になる。

ただマノンはフランス植民地からイギリス植民地に向かう途中で死んでしまう。マノンが死ぬことで「愛の完成(成就)」がなされるわけだった。マノン(恋人)はもう浮気もせずに彼の胸の中で眠る。愛されていたと知って、彼に感謝の言葉を述べる。それは彼に取って愛の神話の誕生だった。「エロスとタナトス」だ。それも新大陸で。若者には憧れを抱くような話になってしまったのだと思う。

そういえば『マノン・レスコー』を最初に読んだのは映画『マノン』で烏丸せつこがヒロインだった時だ。今では押しも押されぬおばさん俳優になっている(褒めている)。かつてのファム・ファタル「運命の女」の姿を私は知ってしまった。


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