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沖縄の民よりも日本人の心情を描いた映画

『沖縄の民』(日本/1956)監督古川卓巳 出演左幸子 /安井昌二 /長門裕之 金子信雄 /安部徹

昭和十九年、沖縄に兵隊が続々送りこまれるなか、国民学校の児童たちは集団疎開としてツシマ丸で那覇から出港した。しかし船は魚雷攻撃で沈没してしまう。そして翌年米軍がついに本土上陸する。凄絶な砲火を浴びながら敢然と闘った沖縄の人々の姿をセミ・ドキュメンタリーに描く。

戦争の記憶があった1956年作。もっともこの時期は太陽族や冬季オリンピックで日本人初メダル、国際連盟加入などで、高度成長期に入る頃で、戦争の記憶も薄れてきていた。沖縄は占領下だから、実際には沖縄の民は参加していないわけで、日本人中心の映画なのだ。それなのに「沖縄の民」とは?

監督古川卓巳は『太陽の季節』も撮っていたのか。どっちかっていうとそっち方面の監督なのか?あとTVでは『ウルトラマンA』も。実写映像をうまくつなげているのでリアリティがある映画になっている。全体的に画面は暗いが。

主演の二人が日本人役だった。一人は沖縄に赴任してきた女教師で、もう一人は学徒出陣でやってきた学生兵士。日本人を主役に据えることで、ねじれ構造も見えてくる映画になっている。

最初に対馬丸撃沈のシーンで。左幸子演じる日本人教師が日本軍と沖縄の民との間で引き裂かれる思いを描いている。米軍が圧倒的で、捕虜にならざる得ない状況で日本兵が沖縄人に偽装して米軍の船を略奪しようとする。それは失敗し上官は殺されるのだが、その時に行かなかったのが学徒出陣の長門裕之だった。そして彼は米軍の手先として、祠にいる沖縄人を説得しに行くのだがほとんど信じてもらえない。ここでも米軍と沖縄の人との間で引き裂かれる思いを描いている。沖縄の人が自決する悲劇は、語られている通り。

岡本喜八監督『激動の昭和史 沖縄決戦』には影響を与えただろうなとは思える。戦争と軍隊は悪どく描いていて、間に挟まれる日本人を主演にして、ネガ的に沖縄人の感情を描いていいるのだ。

そして、敗戦が決まって沖縄在住の日本人の動向が示される。日本人の子供が内地を懐かしんで作文を書くのだ。それは沖縄の子供にしてみれば悲しい作文なのだが、やがて帰っていく日本人の子供にしてみれば喜ばしい感情を表している。そこを描いているので、日本人は沖縄を植民地化していたとわかる構造になっている。ほとんど沖縄の民を表に出さずにネガ的描いた作品なのだ。

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