侍女の物語
『源氏物語 22 玉鬘 』(翻訳)与謝野晶子(Kindle版)
玉鬘という姫君がヒロインなのだがお付きの侍女たちの物語でもある。それは最初に出てくるのが夕顔の侍女だった右近という女で、彼女は夕顔と明石の君を比べて、もし夕顔が生きていたら明石の君のような待遇を光源氏から受けただろうと妄想するのである。
それは夕顔が廃墟のような場所に光源氏に連れ込まれて怨霊に憑かれて死んでしまったからである。夕顔の死後に光源氏の侍女となって紫の上の侍女になるのだが、忘れられないのは夕顔の娘であった。彼女が本当なら紫の上のように扱われるべきだと思い密かに行方不明になっている娘を探しているのだった。
娘は乳母によって九州(筑紫)で育てられていた。もとは頭の中将の娘でもあり夕顔という母の娘であるから気品と美貌の持ち主で地方の豪族からも多く求婚されるのであった。中でも大夫監(たいふのげん)という男は地方有力者で乳母の子供たちを手懐けて姫に言い寄ってきたのだ。そこで乳母の機転と長男の忠誠心(亡き父の遺言で姫を守るように言われた)によって京に旅立つのである。そこで、長谷寺の観音様のご利益を受けて右近と引き合うのだった。そこから光源氏の庇護を受けるのだが、このへんは光源氏(月の王)だと思うとかぐや姫伝説を思わせる。
また大夫監の地方豪族の横暴さや下品な様子は『平家物語』の京で傍若無人ぶりを発揮する木曽義仲を彷彿とさせる。『源氏物語』が『竹取物語』と『平家物語』の間にあるのがわかる。また夕顔の姫を『日本書紀』のヒルコに譬えるなどこの帖は様々な文学に言及しているのだ。白楽天の漢詩までにも。
それは教育ということなのだと思う。夕霧が親の七光りの官位を与えず大学にやったのと同じで、姫たちも教育があるのだ。その駄目な例が、末摘花であり彼女の侍女は古風すぎて黴臭いと陰口を言われるのだ。明石の君の気品を培っていたのは宮廷を知っている侍女であり、右近は夕顔の姫君もそのような教育を受ける生まれなのだと思っているのだ。
そのように夕顔の娘は「玉鬘」として、光源氏に庇護されて花散里に教育されるのだ。それは夕霧を預けた光源氏の思惑なのだが、この後にいろいろありそうな予感。
侍女の物語というとマーガレット・アトウッド『侍女の物語』がある。これは近未来のディストピア小説だったが『源氏物語』にも近いのかもしれない。
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