見出し画像

『ノマドランド』感想

アカデミー賞候補作の前評判が高い作品で、作品賞、監督賞、主演女優賞、撮影賞は確実に思えるほど素晴らしい作品なのだが(他をあまり観てないので当てにはならないですけど)。

ノマド達は何をしてきたか?彼らは国家機構に対抗して戦争機械を、国家機構とはまったく違ったやつを発明した。樹木-国家に対抗するリゾームとしての戦争機械。樹木状組織こそはまさしく国家権力である。(ドゥルーズ=ガタリ『リゾーム』

「ノマド」は80年代には流行り言葉だったが、ここではプア・ホワイトの女性の車上生活での様子が描かれていてロマン的なものはなく一方にAmazonのよう非正規雇用の厳しい現実があり、季節労働者のように冬の砂漠地帯を移動していく。そしてヒッピー文化的な共同体が出てきたり、後半になると厳かな自由主義(アメリカン・スピリッツ)を謳い上げている気もする。厳しい自然の中に生きる開拓者の魂というような、それでも自動車を持っているから出来ることであって、車も持てぬ者は路上生活者になるしかなく、そこの線引で「ホームレス」じゃなく、「ハウスレス」と言っていたのが印象的だ。我家は心の中に。

実際に主演女優のフランシス・マクドーマンド以外は「ハウスレス」の人々がそのものを演じたセミドキュメンタリー・タッチの映画で、なんと言ってもその壮大な映像が素晴らしい。イワツバメのシーンとか荒波のシーンとか。

『ノマドランド』に登場する高齢者の女性は、かつては中産階級で高学歴(ランシス・マクドーマンド演じるファーンも臨時教員をしていたことがある)の白人であり、男女格差の中で夫を亡くしたことで自立を迫られる中で車上生活が自身の安全と居場所になっている。車が動かなくなったらそれは死に直結するのだが、そんな人々が寄り添うコミュニティが存在するのもアメリカならではなのかもしれない。

『ノマドランド』が男女格差を描いた女性映画でもある理由 https://www.cinematoday.jp/news/N0122380


この記事が参加している募集

#映画感想文

68,047件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?