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救出劇も政府の特殊部隊は足かせになるという教訓

『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』(アメリカ/2021)監督エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ

解説/あらすじ
2018年6月23日、サッカーチーム「ムーパ(イノシシ)」に所属する少年12人がサッカーの練習後、コーチ同行のもとタイ北部チェンライ県のタムルアン洞窟探索に入った。しかしその日は豪雨により洞窟が浸水し、出入り口が塞がれてしまった。少年たちは帰宅できなくなり、不審に思った家族から行方不明と報告され、捜索作業が始まった。少年たちは洞窟の入り口から約5キロ入った場所に取り残されていることが確認されたが、洞窟内は増水し救助は不可能と思われた。タイ海軍特殊部隊、米軍特殊部隊に加えて各国から応援が入り数千人が集まったが、洞窟ダイビングは死のリスクが高く、特殊技能が必要であるため、少年たちの救助活動は進まない。そこで世界各地から集められたのは、民間の洞窟ダイバー達だった。彼らを中心にした決死の救出作戦が始まる―。

なんだろう、これはすごく面白いドキュメンタリーだった。洞窟事故で閉じ込められた少年たちを救出するドキュメンタリー。それだけの映画なのに、ドラマになっていた。最初、タイの特殊部隊が役立たずなのが明らかになる。それは考えれば年中泳ぎの訓練をしているわけでも洞窟という特殊な場所を潜水しているわけでもないので、どんな優秀な特殊部隊でも無理だという話。

たまたまタイの女性がニュースを観ていて、彼氏がイギリスの洞窟潜水ダイバーなので連絡をした。そして彼が洞窟潜水ダイバーの仲間を呼び、救出作戦を立てたということだ。普段はマイナースポーツで、洞窟ダイバーという引っ込み思案で暗い所付きの社会から外れてしまった者たちがやってくる。

タイ政府は、そんな連中に任せられないという。まあ、最初にやってきたのが中年おじさんたちだったから。でもその世界で第一人者と言われる彼らは、困難な洞窟潜水を難なくこなす。それは普段そういう生活をしているから。装備も自分で工夫して、見た目はちゃちい(ガムテープやらでツギハギだらけ)が潜水しやすいように自ら改良を施したものだった。だから装備がいくら素晴らしい特殊部隊でも生まれて初めて洞窟潜水をする人と違っていた。彼らは未知の洞窟を楽しんでしまうダイバーなのだ。

タイの作業員が洞窟に取り残されていた(ミイラ取りがミイラになるを地で行く)のを救助したり、その時に救出するのは大人でも水を飲み込んでパニックなってしまうと知る。それが後に大胆な作戦を決行しなければならなくなる予感になった。なかなか作業が進まず何日も過ぎていく。

ちょうどワールドカップで日本がベルギーを破ったニュースで盛り上がっていた時だった。地元のサッカー少年たちの洞窟事故はその後に報じられた。

ちょうどタイは雨季に入っていて、洞窟内の水かさも増えさらに洞窟の奥深く少年たちが探検して行ったから(その時は水が溢れてなかった)、なかなか進展しない。ニュースは連日大騒動で、仏教国タイの民族性なのか、山の神にお祈りして助けてもらうという行動にも。偉い坊さんを呼んできて占わせたり、その坊さんの予言は当たらなかったが、洞窟近くに祈祷所のような者が出来ていろいろマネキンの仏像やら神様が置かれたり。山の民話も紹介されて、山のお姫様の祟じゃとか。

そして、何日目かにやっと少年たちを発見する。その前にタイの元特殊部隊の人が死んでいた。毎日身体を鍛えて訓練している人だが、洞窟潜水という過酷な場所で酸素ボンベを運ぶ作業中に。普段激流の中、重い酸素ボンベとか運ぶことなどしたことがない者だから当然なのだ。それでも政府は特殊部隊のメンツがある。アメリカの特殊部隊も応援に来ていて、洞窟ダイバーはそっちに参加していた。こういう時に政府というのはメンツを重んじるのが、よくわかる。それがけっこう足かせになるのだ。

まあ人員作戦で大勢のボランティアが必要だったのは事実なんだけど、最初から洞窟ダイバーの意見を聞いていたらと思わせる。それもアメリカの監督がこの事故を編集したドキュメンタリーだからかもしれないが。少年たちを発見しても激流の中での救出は困難だと見て、洞窟の水を止める作業に入る。重機で水の入る場所を塞いだり、ポンプで水を汲み出したり。

その間に食料を調達する。軍医も同行するが洞窟に残る(素人は酸素ボンベの使い方も未熟だから帰りの分も使い切って戻れなくなる)。そしてダイバーチームのリーダーが麻酔医の友人に麻酔して救出できないか相談する。これは賭けのようなもので誰もそんなことを試みた者がいないのだ。麻酔で軌道が塞がれ長時間耐えられるかとか。最初は不可能だと言っていた麻酔医もリーダーの賭けに従うことになる。一人でも救出できたなら御の字だと。また失敗したら犯罪になるかもとも。全国民が観ているのだから。

それがうまくいくのだった。一人一人救出していく。一日では無理で数日かけて少年12人は救出された。

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