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堕天使、オルガなのか?

『私、オルガ・ヘプナロヴァー』(2016年/チェコ・ポーランド・スロバキア・フランス)監督監督・脚本:トマーシュ・ヴァインレプ、ペトル・カズダ 出演:ミハリナ・オルシャニスカ、マリカ・ソポスカー、クラーラ・メリーシコヴァー、マルチン・ペフラート、マルタ・マズレク


“私、オルガ・ヘプナロヴァーはお前たちに死刑を宣告する”
ある日、彼女は自分の中の悪魔を解き放った。
1973年、22歳のオルガはチェコの首都であるプラハの中心地で、路面電車を待つ群衆の間へトラックで突っ込む。この事故で8人が死亡、12人が負傷する。オルガは逮捕後も全く反省の色も見せず、チェコスロバキア最後の女性死刑囚として絞首刑に処された。犯行前、オルガは新聞社に犯行声明文を送った。自分の行為は、多くの人々から受けた虐待に対する復讐であり、社会に罰を与えたと示す。自らを「性的障害者」と呼ぶオルガは、酒とタバコに溺れ、女たちと次々、肌を重ねる。しかし、苦悩と疎外感を抱えたままの精神状態は、ヤスリで削られていくかのように悪化の一途をたどる…。

チェコの映画は始めてだったけど(でもなかった、『異端の鳥』がチェコ映画だった)、日本でも似たような事件があった。「秋葉原通り魔事件」。

映画のヒロイン(ダーク・ヒロインか?主人公ぐらいの意味)オルガを演じるのは、ミハリーナ・オルシャンスカはポーランドの才女と言われる女優。モノクロ映像でかなりシャープな映像で存在感を示していた。チェコ・アカデミー主演女優賞を受賞している。日本でもけっこう公開作があるので、彼女の演技で公開されたのかもしれない。それだけの存在感がある演技だった。

原作があるぐらいだから、この人物の家庭環境とかかなり詳しく調べ上げた映画なのだろう。幼い頃からいじめに合っていたのは、厳格な母とそれを乗り越えようと勉強したからではないか?内向的性格で、知的な感じ。かなり哲学や思想関係の本を読んでいたと思われるのは当時のチェコは社会主義国だったがアメリカの本を読んでいた。

自殺願望が強く薬物中毒でもあったようだ。精神病院にも入れられているがそれがさらに彼女の性格を頑なにしたようだ。理解者が一人もいない孤独の中で本の世界やコトバの世界が逃避する場所だったのではあるまいか。事件を起こした後でもトイレットペーパーにメモをするような自己中心的なコトバの世界にのめり込んでしまったかのようである。

ほとんどはそんな彼女の半生の理解されなさを描いていたが、事件後に弁護士なのかかなり突っ込んだ神学的な話をするのだ。自分が弱い人間なのに神になったつもりで矛盾してないか?と詰問される。彼女の矛盾点を容易に付いたが彼女は人間は誰もが弱い者と答える。つまり人間の弱さを認めながらもそれを救ってくれる者がいなかった。

救われる可能性はあったのだと思う。恋をするとか、仲間を得るとか。それを放置していたのは社会なのだろう。まず母親の厳格さから逃れられなかった幼年期。彼女が一番復讐したかったのは母親なのだ。母と娘の問題の映画がけっこう最近は話題であるが、そうだ、彼女の家には父親が不在のような家だった。それで強い父=神に憧れてしまったのだろうか。罰して欲しかったのは何よりもこの世界であり、彼女自身であったのだ。

チェコで最後の死刑囚という死刑のシーンはあまりにも残酷だった。泣きわめく一人の少女がいたのだ。そのあとに絞首刑にあった冷たい死体だけ。今期一番の衝撃作かもしれない。

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