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リア王はブッチャーか?

『リア王』シェイクスピア (著), 安西 徹雄 (翻訳) (光文社古典新訳文庫 – 2006)

とつぜん引退を宣言したリア王は、誰が王国継承にふさわしいか、娘たちの愛情をテストする。しかし結果はすべて、王の希望を打ち砕くものだった。最愛の三女コーディリアにまで裏切られたと思い込んだ王は、疑心暗鬼の果てに、心を深く病み、荒野をさまよう姿となる。

松岡正剛『千夜千冊』で『リア王』をシェイクスピアの一番の傑作だとするのだが、四大悲劇の一つ。介護小説とする読みもあるようだ。

リア王は生前贈与で財産を娘三人に分け与えたが、末娘だけはリアに楯突いたために分け与えなかった。強欲な長女と言葉巧みな次女はリア王を追放する。やっと天使のような存在の三女が出てきて、父リア王を助ける物語。

シェイクスピアの描く女は性悪なのが多いのはヘカテの系譜っということなのか(その中で唯一三女は天使のような存在だが)。『リア王』の元になった「レア王」(こっちがパロディみたいな)では末娘のコーディリア率いるフランス軍が勝つのに、シェイクスピアはあえて娘の獄中死にしたという。コーディリアが勝ってしまったら単なる教訓的ないい話になってしまうからか。世界は不条理劇という悲劇。過程(家庭)は喜劇。

リア王もリア王だった。土地と財産を分け与える生前贈与で自分の住む場所ぐらい確保しなかったのかと。兵隊100人で押しかけて行っては娘も迷惑だ。それを50人に減らせと言うのもわかるし、護衛の者四・五人でいいじゃないのと言うのはもっともな言い分。そんでフランス巻き込んで戦争だ。

道化とサイドストーリー的なグロスター伯の親子の物語を入れることでリア王と違う親子(父と息子のいい話)の命運を描いているのだがややこしい感じだが。ヘカテの系譜(娘達の物語)からキリスト教的騎士道精神の現れなのだろうか?(2016/08/03)

ブッチャーのテーマとして、有名なピンク・フロイドの「One of These Days」は、リア王のこのセリフから。

「吹け、嵐よ、貴様の頬を吹き破れ!狂え、吹きすさべ!降れ雨よ、滝つ瀬となり、竜巻となり、降りつのれ、尖塔の頂きも、風見の鶏も、ひとしく洪水に溺れ去るまで!稲妻よ、硫黄の焔、一瞬にして雷神の怒りを放ち、樫の巨木を真っ二つに引き裂く雷の先駆よ、この白髪を焼き焦がすがいい。そして、おお、天地を揺るがす迅雷よ、この分厚い地球の丸々とした腹を打ち砕き、自然の母胎そのものを叩きつぶして、忘却の人間どもを生み出す種という種を、今、ことごとく撒き散らしてしまえ!」


黒澤明監督『乱』は娘たちの物語を息子たちの物語を戦国時代にした。


関連書籍:伊藤 伸一 (著), 伊藤 正治 (著) 『認知症になったリア王 相続と介護』、橋本治『リア家の人々』



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