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ヤフーはヤッホーでは無かった

『ガリバー旅行記』(翻訳)原民喜(講談社文芸文庫)

1951年3月、原民喜自殺。死の直前に書かれた『ガリバー旅行記』再話。その第4章馬の国(フウイヌム)は怒りも憎しみも悪もなく、死の悲しみもないユートピア。穏やかな理性の国に唯一、光る石を好み争うことしかしないヤーフと呼ばれる人間に似た卑しい生きものが存在した。1945年8月6日の剥ぎとられた街「ヒロシマ」を所有する原民喜の悲痛な『ガリバー旅行記』。

図書館の返却本棚に講談社文芸文庫版を見つけたので再読。

原民喜が自殺する直前に翻訳したジョナサン・スウィフトの古典。日本でも「天空の城ラピュタ」など今でも読まれ続けているのだろう。そういえば「ガリバー」は中古車でも有名だが、私達の時代にはオウム真理教のサティアンの跡地に「ガリバー王国」なるテーマパークが作られたのだけど行った人はいるのかな?

原民喜は原爆の悲惨な世界を見たあとにこの作品の翻訳作業に没頭したのは鎮魂の祈りのためだったと、川西政明の解説。原民喜自身のあとがきにもそれらしきことが書いてあるが、オーウェルはこの原作のスウィフトは、作品をアイロニー(アンチユートピア)の世界だと見る。それはフウイヌム(馬)に支配される人間の未来はけっして明るいものではないからだという(一つの管理社会)。日本でも野蛮と化したヤフー(検索サイトのヤフーはこれが語源。ヤッホーではなかった)の世界を描いた奇書沼正三『家畜人ヤプー』というパロディ作品もあった。

ただ原民喜はこの世界に絶望しながらも未来の子供たちにこの作品を残しておきたいと願ったのだ。それが遺書だったにしても。


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