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青春のきっぷを落として秋茜

2022年の夏の終わりに青春18きっぷでお遍路に行く予定を立てたのです。青春18きっぷの期限(9月10日)が切れそうなので台風が近づいているのは知っていたのでしたが、なんとかなるだろうと四国に旅立ちました。

その前年も台風で東海道本線は静岡で不通になるのを乗り越えて、七ヶ所まいりが出来たことが自信になったというより、うぬぼれていました。台風を避けながら出来れば、四国八十八箇所の何箇所かの寺を回った後に四国観光地巡りもいいなと漠然と考えていたのですが、準備もままならぬまま出発したのです(洗面道具は忘れ、着替もなかった)。

四国到着までは順調。台風で不通になることもなく宿泊場所の宇田津駅(前回泊まったネットカフェがある場所)まで長時間(13時間)乗りっぱなし。けっこう疲れを引きずってしまった。当日の朝になってから準備に追われ、始発電車を逃してしまった。これも最初の慣れからくるアクシデントでした。

前回はアクシデントがあったもののそれが途中休憩になり、岡山で一泊したので返って余裕を持つことができたのですね。今回は余裕が全然なく思考力も落ちてました。

夜七時過ぎに着いた四国は朧月が見られるほどの天気ですっかり旅の緊張感を忘れていました。香川の月も都会と大して変らん。瀬戸大橋で見たかったんだが逆側に座っていと、このときはまだ余裕のツイートしてました。そして、月を見て一句。

朧月四国の月はいつもの奴  宿仮

朧月は春の季語でした。この頃はまだ俳句初心者でした。明日は、香川の残り(前回七ヶ所まいりの残りの寺)のお遍路コースをどのように攻めようか?とか考えていた(やっぱ一番所からか)。

パソコンで行く場所をいろいろ調べたら、どうも朝は雨らしい。それならば西に行けば雨は避けられるだろうと浅はかに考えたのだった。

台風は西に逃げてやお遍路さん  宿仮

お遍路の旅でもあり俳句の旅でもありました。あとで読むとアホですね。

Yahoo天気予報とマイクロソフトの天気予報が違っていて、マイクロソフトの天気予報は朝の雨は曇りになっていました。ただ2つとも午前中は晴れで3時過ぎから雨予報だったのでこれは行けると思ったのです。だからお遍路も第一礼所の霊山寺の鳴門・徳島に行って出来るだけ順番通り回れば何箇所か行けるはずと考えていたのです。

徳島遍路は「発心の道場」と言われ、去年行った香川の「涅槃の道場」とは厳しさが違うような。霊山寺の納経所にはお遍路グッズが取り揃えてあり、なかなか威圧的な感じでした。徳島の霊山寺と香川の善通寺にはなにやら曰く付きの対立構造もあるようです。霊山寺の前に零番礼所(青龍寺)があって、そこでお遍路の作法を学ぶとネットにあったのには驚きました。

結果、当日は台風でした。折りたたみ傘は骨が折れるし、遍路笠も紐でかろうじて首に巻き付いている感じ。もう風雨を避けられない状態。しかも前日にお金を下ろしてないから郵便局でお金を下ろすことに。後から考えるとここが鬼門だった。大師さまも貯金通帳見たんだと思います。

傘は邪魔だしリュックはなかなか開けられないし、財布は短パンのポケットだと濡れたり落としたりするのでリュックのポケットに入れていたのです。なかなか財布を出すことができずにイライラしてしまった。外でATMを待つ人もいたので。

お金をいくらか下ろして、霊山寺へ。普段お大師さんを尊敬もしてないので、嫌われていたのかもしれないです。向かい風と雨は情け容赦なしです。俳句はあとで詠んだものですけど。

台風や遍路笠飛ばす靈山寺  宿仮
骨折りのビニール傘や野分かな  宿仮

それでも第一礼所の霊山寺の池などは鯉が優雅に泳いでいたり「発心の門」とかお大師さんが四国で修業を積んだ山岳仏教としての風格を持った素晴らしい寺です。しかし、雨で参拝もままならず、般若心経を経本を出すのも億劫になって、適当に「南無阿弥陀仏」を唱えていたのです。やっぱ隠れ浄土真宗なんですかね(弘法大師は真言宗ですね)。他力本願の親鸞さんの方がありがたいようで。そういえば霊山寺には、御詠歌もあるんです。ここで旅の無事を祈るのですが、祈ってる状態ではないぐらいの暴風雨。

霊山の釈迦のみ前にめぐりきてよろずの罪も消えうせにけり

この後悲劇が..........。

もうさっさと御朱印を貰って帰ろうと思って納経所に行ったら、一番礼所だけあって、お遍路グッズがすべてここに揃っているのですね。ただ観光地料金のような。そうしたものは必要がないので、御朱印だけ貰って出ました。

この雨じゃ参拝者も人が居ないどころか四国の沿線情報は不通区間があるではないか。それも四国の真ん中で分断されている。もう宿を探すしかないような状態でした。

次に電車が来るのが昼過ぎ。9時に到着して、一時間ぐらいで戻ってきたから二時間以上次の電車を待たなくちゃならない。ローカル線は時刻表を頭に入れて行動する必要があるのですね(また四国でお得なきっぷで特急も乗れるのかと思ったり)。電車の場所を知らせてくれるアプリもあり、これを利用すれば少しはそういう待ち時間を減らせられるかもと、次回の教訓といろいろ思案してました。

こんなときは読書だと思って『唐詩選』を読もうと出したのです。確か切符はここに挟んだはずだが切符がない(読んでいる本に栞代わりに挟むのが癖なので)。もうこの時の落ち込みようは、杜甫の詩に匹敵するぐらい(国破れて山河あり)でありました。そして、一句。

唐詩選途方に暮れて無人駅  宿仮

途方と杜甫をかけてあります(どうでもいい)。その前日はこんな句も。

お遍路や驟雨列車の虹の旅  宿仮

この雨は止むはず。また晴れ間を縫って、思い出深い旅になるだろう。台風らしい天気と台風一過の後の虹まで想像していたのでした。

そして現実は、ここはもう俺のいる場所ではない。もう帰ろう、となったのです。

青春のきっぷを落として秋茜 宿仮

赤とんぼが無人駅の駅舎に一匹止まっていました。帰りの高徳線は長かった。特急に乗れば良かったのに、鈍行を選んでしまった。そういえば四国一周は青春18きっぷではキツいので(特急区間が結構あるのです)、四国フリーきっぷは、3千円で3日間乗り放題なのだと知り、次に四国を観光するときはこのきっぷだなと考えていたり。

これはデジタルきっぷだから落とす心配はないとか、スマホが使えなくなったら終わりですけど、無くすことはないでしょう。ただ電波状態やスマホ電池が切れた場合は使えない。去年の松山のフリーきっぷではちょっとしたトラブルもあったことを思い出したり

そして帰りは、お金がもったいないと思ったので夜行バスで帰ってきたのです。これもデジタルきっぷでした。そして夜行バスは、けっこう安いことを発見。噂には聞いていたのですが、それまではそういうのに乗ったことがなかった(マイカーを持っていたので)。

青春の旅って、こういうもんだと改めて知りました。予め予定が立つ旅もいいでしょうが、こういう旅もまた印象的で。帰りの夜行バスでは、眠れずにひたすら反省会の時間でしたが、もっとポジティブに考えて次はバス旅行にしようと決めたのでした(また青春18きっぷを買ってしまいましたけど)。

夜行バス眠れない夢は降りた街重い荷物も足取り軽く  宿仮

東京に行きたい家出女子高生になって詠んだ一首です。


#忘れられない旅

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