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若き柏木の悩みは夕霧へ

『源氏物語 36 柏木』(翻訳)与謝野晶子( Kindle版)

平安時代中期に紫式部によって創作された最古の長編小説を、与謝野晶子が生き生きと大胆に現代語に訳した決定版。全54帖の第36帖「柏木」。柏木は生きる気力がなく一向に快復しない。女三の宮は不義の子・薫を産んだ恐ろしさに出家を望み、父の手で髪を下ろしてしまう。それを聞いた柏木は夕霧に事実を仄めかし、源氏にいつか謝ってくれと伝えて亡くなった。夕霧は柏木の未亡人・落葉の宮を慰めるうちに心惹かれるようになる。平安時代中期に紫式部によって創作された最古の長編古典小説を、与謝野晶子が生き生きと大胆に現代語に訳した決定版。

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この帖は柏木の独白から始まる。しにつつある柏木の「若きウェルテルの悩み」風だが、以外に紫式部は醒めていた。自業自得の部分もあるから。その後に小侍従に女三宮に託す手紙を書くのだが、その手紙が「あはれ」というのだが(みしろ小侍従にあはれと思って手紙を持っていてくれないか?ということのようである)、紫式部は柏木を「あはれ」とは思っていないのだ。それは女三宮との「あはれ」合戦という歌のやり取りになるからである。

(柏木)
今はとて燃えむ煙(けぶり)もむすぼほれ絶えぬ思ひのなほや残らむ
(女三宮)
立ち添ひて消えやしなまし憂きことを思ひ乱るる煙くらべに
(柏木)
行方なき空の煙となりぬとも思ふあたりを立ち離れじ

柏木の最後の手紙を鳥の足跡のようでと書く紫式部である。さっさと飛んでいきなさいと言っているようでもある。

そして、女三宮は薫を出産。しかし光源氏は冷淡である。男の子なのがせめてもの救いだと考える。女三宮は罪の意識から出家を願う。光源氏が気にするのは世間体もあるが朱雀院への気持ちなのである。朱雀院も出家したが親としての煩悩(女三宮の心配)があり光源氏を尋ねてくる。光源氏は怨霊のせいにしているが、たびたびでてくる怨霊を紫式部は信じているのだろうか?物語上、辻褄合わせのために怨霊を召喚しているのではないか?それを招くのは光源氏の心なのである。

女三宮の出家は、藤壺の出家を連想させる。このことから女三宮の子供は柏木だということになるだろう。

煙合戦のもう一人の柏木は、夕霧に看取られて死ぬのだ。ここは友情物語になっている。この友情物語がアダになるのは、柏木の妻である落葉の宮の面倒を見てくれと頼まれるからだ。柏木も罪づくりな男だった。柏木の欲望が夕霧に乗り移ったのかも。

そして柏木の両親の悲しみと夕霧の和歌。煙は霞になった。

(内大臣)
木(こ)の下の雫に濡れてさかさまに霞の衣着たる春かな
(夕霧)
亡き人も思はざりけむうち捨てて夕べの霞君着たれとは


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