見出し画像

幻想文学の集大成的な

『源氏物語 42 まぼろし 』(翻訳)与謝野晶子(Kindle版)

平安時代中期に紫式部によって創作された最古の長編小説を、与謝野晶子が生き生きと大胆に現代語に訳した決定版。全54帖の第41帖「まぼろし」。紫の上亡き後、源氏は具合が悪いと御簾の中に引き篭もっていた。一周忌を滞りなく済ませ、出家のために身辺整理していると紫の上から送られた手紙の数々が出てきたが、思いを断ち切り一切を焼いてしまう。仏名式があり、公の場に出るのもこれが最期と参会した源氏の美貌は、若かりし頃より更に光り輝いて見えるのであった。

Amazon紹介文

紫の上が亡くなってからの追悼特集というような六条院の人々の様子を光源氏が訪れる(あるいは手紙が来る)の中で紫の上の春の間の季節が中心に回っていたのかとさえ思える。

第二部の終わりということで、総集編のように登場してくる六条院の人々。こういう作りが上手いというかいきなり新しい展開にはいらないでこういう箸休めの章を用意している。この繋ぎ目は次に主役となる人物紹介も兼ねているので、三宮(匂宮)は注目に値する。

和歌は春から始まって四季折々に読まれている。まさに歌物語に相応しい終わり方だと思う(まだ第三部が続くが)。その中でもっとも重要なのは神無月に詠まれた光源氏の和歌だろう。

(光源氏)
大空をかよふ幻夢にだに見えこぬ魂の行方たづねよ

六条院が幻のように建設された桃源郷であったとするならば、その魂たち(登場人物)は精霊なのかと思う。だから六条院の御息所(怨霊)となった場所を作り変えて聖霊たちの場所にしたのである。それは光源氏の幻だった。

その次の帖が題名だけの『雲隠』って凄いね。ジョン・ケージの音楽を凌ぐ凄さだ。『源氏物語』の革新性というか、まさに文学は「まぼろし」というフィクションを描くことだったと強烈に感じた。




この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?