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昔はディスクユニオンの袋を持っているとよく声をかけられたな

『生物から見た世界』 ユクスキュル (著), クリサート (著),  日高 敏隆 (翻訳), 羽田 節子 (翻訳)(岩波文庫– 2005)

甲虫の羽音とチョウの舞う、花咲く野原へ出かけよう。生物たちが独自の知覚と行動でつくりだす“環世界”の多様さ。この本は動物の感覚から知覚へ、行動への作用を探り、生き物の世界像を知る旅にいざなう。行動は刺激に対する物理反応ではなく、環世界あってのものだと唱えた最初の人ユクスキュルの、今なお新鮮な科学の古典。

科学本や論理本は苦手なのだが、これは面白かった。解説でも言っているように「生物学の絵本」なのだ。こういう絵が入るとわかりやすい。本当は言葉が苦手なのかもしれない。

まず思ったのが「香川照之の昆虫すごいぜ!」の世界だ。香川照之が昆虫になって体験実験するコーナーの面白さ。トンボの視覚能力とか飛行能力の凄さと言ったら。そういう生物によって世界の見え方の違いを人間が通して見る「環境」という視点(人間に取って都合の良い近頃流行りのSDGs)ではなく、生物ごとにある「環世界」という考え方。

ハエは食物のあるテーブル上の食物が入った皿と電気の灯りは見えているが、その他の世界は闇の世界だ。犬にも、テーブルの上の食物や飼い主がお座りさせる場所や寝転ぶソファーは見えているが回転椅子は座れないので眼中に無いという。そうした生物ごとの見えている輪っかの世界をシャボン玉に喩えて環世界の見え方に喩える。

生物学の世界よりもSNSの世界だとわかりやすい。SNS上のラインは各自の世界の環世界だとする。例えば夫婦でもってTwitterをやっていても、Twitterを交換した場合、夫と妻ではライン上の話題についていけないと思う。

妻の関心はブランド専門店だとしてそのショッピングバッグは渋谷の繁華街でもすぐに目に入る。逆にだがジャズが趣味の夫のディスクユニオンのビニール袋はアウト・オブ・眼中なのだ。ゴミ袋にされて捨てられてしまう。しかし夫は渋谷の繁華街でもその袋の持ち主と出会えるのだ。ブランド専門店の袋は見えてないのに。

あとよく言われている時間の観念も小学生と還暦のオジさんでは時の長さが違う。象の時間とネズミの時間の違い。ハイデガーの哲学にも影響を与えたらしい。

俳句をやっていると季語の世界でものが見えてくるのもその環世界かもしれない。直線的な時間ではなく。

そういうことだと思う。違うかな?だから人間はその見えている世界が全てだと思うが全然見えてないこともあるのだ(むしろそっちの方が多い)。『生物から見た世界』の面白さは、文系の人にもお勧めしたい本だ。



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