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雲を見て遠い世界を想像する

『雲は美しいか: 和歌と追想の力学 』渡部 泰明(29;29) (ブックレット〈書物をひらく〉 29)

和歌の歴史の中で、雲はとりわけ別れの主題に関わって多様なかたちで美意識を堆積した。その美を追想することでまた新たな作品が生まれる。和歌の美の力学を解きほぐす試み。

万葉集以来、「雲」は膨大な和歌に詠みこまれてきた。そしてとりわけ別れにかかわって、雲のモチーフは多様な美意識を堆積させ、漢文学の伝統とも相まって、生成し、享受される情調の群体を成長させてきた。そしてまた、追想されるその母体が新たな作品を生み出す。和歌の、古典の、力動をさぐりあてる、雲の和歌史。
目次
はじめに 「追憶」
1 歌われた雲
2 『万葉集』の雲
3 平安時代へ―変貌する神女
4 『新古今集』の時代
5 中世和歌の雲と幽玄
おわりに なぜ古典を学ぶのか、という問いに

出版社情報

和歌に詠まれた雲の歌を時代的に探りながら、雲が象徴していたものや日本人の美意識について考える本。最近、ボケっと雲を見ていることが多いので、ちょっと面白そうな本があったので手にしてみました。

『万葉集』では妻や恋人との別れ(死別も含む)、歌人が別れた人と同じ雲を見ている。

遠くありて雲居に見ゆる妹(いも)が家に早く至らむ歩め黒駒  柿本人麻呂

『万葉集 巻七』

風雲は二つの岸に通えども我(あ)が遠妻の言そ通はぬ  山上憶良

『万葉集 巻八』

平安になると神の通い道や中国の神話『高唐賦』の影響で雲は姫の化身というような。「浦島子(姫)」伝説。

天(あま)つ風雲の通ひ路吹きとぢよ乙女の姿しばしとどめむ  遍昭

『古今集・雑』

煙は隠すもの、荼毘する煙と同一視して、亡き者を追想する歌へ。亡き者を追想する歌へ。『源氏物語 葵』。

のぼりぬる煙はそれと分かねどもなべて雲居のあはれなるかな

『源氏物語 葵』

『源氏物語』に影響を与えた和泉式部の和歌

はかなくてけぶりとなりしい人により雲ゐの雲のむつましきかな  

『和泉式部集』

『源氏物語 夕顔』の光源氏の追悼歌

見し人の煙を雲とながむれば夕の空もむつましきかな

『源氏物語 夕顔』

『新古今』以降になると幽玄の世界。夏の雲を眺め、遠い世界を想う。

風吹かば峰にわかれん雲をだにありしなごりの形見とも見よ  藤原家隆

『新古今・恋四』

亡き人の形見の雲やしをるらむ夕の雨に色は見えねど  太上天皇(後鳥羽院) 

『新古今・哀傷』

また定家の「幽玄体」という雨雲の書体が出てくる。


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