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『荒地』は「東京砂漠」かと思ったが違った

『荒地』(岩波文庫)T.S.エリオット (著), 岩崎 宗治 (翻訳)

「四月は最も残酷な月…」と鮮烈な言葉で始まる『荒地』は、20世紀モダニズム詩の金字塔である。本書には、『プルーフロックその他の観察』から『荒地』までのエリオット(1888‐1965)の主要な詩を収録し、前期の詩作の歩みをたどれるようにした。引用と引喩を駆使し重層性を持った詩を味読できるよう詳細な訳注を付す。

タイトルからもっと殺伐としたものを想像していたが違いました。モダニズムということで村上春樹にも通じるお洒落な女たちとの会話、ブルジョア生活の中に宿る刹那さや孤独。一方にお洒落な婦人たちのおしゃべりな表層世界があり(モダニズム)、インテリ青年の深層には詩的な精神世界(伝統的な保守主義)が拡がる。しかしそれは引用によるもので、婦人たちのおしゃべりと同一なのではないか?と感じました。

文庫の解説では古典主義的な、それぞれの言葉の引用は解説を読まなければ今の我々にはわかりにくいのです。むしろ魅力はその上辺だけの恋の駆け引きの言葉に感じてしまう(小説のように読めます)。それも不毛な行為ですが、若気の至りというのがあるような。そうした言葉が表層の砂埃にしかすぎないインテリ青年の嘆きの詩です。深層世界(文学、詩)への憧れ。これはネット社会にも言えると思います。言葉が電子のごとく流れては消えていく。留めて置きたい言葉を探りながら。

日本の荒地派は、戦後の不毛を歌った吉本隆明に代表されるものだと思っていたのがそもそも違っていました。彼はその後の詩人で、荒地派に憧れていたのかもしれない。彼らはモダニズムの人たちで後のハヤカワ・ミステリーの翻訳者となったということです。田村隆一、鮎川信夫、加島祥造。

荒地派について - 吉本隆明の183講演 - ほぼ日刊イトイ新聞https://www.1101.com/yoshimoto_voice/speech/text-a111.html

エリオットの時代もジョイス、ヴァージニア・ウルフとか才能が開花したイギリスのモダニズム文学の一つなのでしょうか。もっともエリオットが引用するのはイングランドよりはアイルランドや聖書、ホメロスと多様です。エリオットの引用詩については後にバローズなんかのカット&ペーストにつながるのかなと思いました。エリオットはシュールレアリズムからヒントを得ていたようですが。


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