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保守反動の俳句世界

『現代俳句の海図―昭和三十年世代俳人たちの行方』小川軽舟

現俳壇の中核的指導者として実力と人気を兼ね備えた昭和三十年世代の俳人たち。中原道夫・正木ゆう子・片山由美子・三村純也・長谷川櫂・小澤實・石田郷子・田中裕明・櫂未知子・岸本尚毅の10人を取り上げ、その歩みと現代俳句の今後の展望を指し示す、注目の最新評論集。
目次
昭和三十年世代の行方
中原道夫―濃密な知と情
正木ゆう子―宇宙との交感
片山由美子―現代女性の抒情
三村純也―花鳥諷詠の世界
長谷川櫂―俳句的世界観
小澤實―感興の鮮度
石田郷子―静かな象徴
田中裕明―思索する詩人
櫂未知子―俳諧の原点
岸本尚毅

著者と同世代あたりの昭和三十年代の若手10人(今は重鎮になっていた)を論じた俳句批評。この年代は保守回帰の時代か?最後の岸本尚毅がわかりやすい。

理論家だけど飄々てして伝統俳句を読む。岸本尚毅はNHK俳句でも教え方が上手いような気もしたし、優れている俳人だとは思う。しかし、いまいちそっちの方面には行きたくないと思ったのは、伝統俳句の枠から出られないと思ったからだろうか?

個人より結社みたいな、俳句が個人表現であるよりも関係性の文学であるという、その中で個人としての岸本尚毅は何を求めているのだろうか?

焼藷や空に大きく太子堂  岸本尚毅

『瞬』

よくわからないよ。二物衝動。焼藷が俗で、太子堂が聖なる空間。空は空虚ということか?空なる思想。虚子論を書いたのが『現代俳句の世界』「虚無を飼いならす」。現実の社会から断ち切れた俳句だという。時代を映すことがない俳句。浮世離れの俳句。俳句で自己表現をする意思がないとまで言っている。若い時から、抹香臭い。

鶏頭の短く切りて置かれある  岸本尚毅

『鶏頭』

植物の鶏頭だから素通りしてしまうような句か?本当は鶏の頭だったりして。高校のときに解剖の実験をやったな。その時の机に置かれているイメージ。あるいはシェパードを番犬に飼っている人が近所にいて鶏の頭を餌として与えていたとか。実際に見たわけではないが信じていた。やたら吠える犬だったのか。いつの間にか空の檻だけがあったような。

虚子の「虚しさを虚しさのまま包み込む俳句」という。仏教の「空」の観念。

冬空へ出てはつきりと蚊のかたち  岸本尚毅

『鶏頭』

ほんとわからん。冬の蚊なのか?冬空に飛んでいたのかな。それを叩いたら蚊のかたちだけが残ったという虚無感。叩かないで飛んでいる姿を見たということだった。叩き殺したら仏教に反するな。人間が出来ている人なのか?

海上を驟雨きらきら玉椿  岸本尚毅

『鶏頭』

驟雨が季語か、玉椿は比喩なんだろうな?「玉椿」は椿のことだから季重なりなんだが、比喩だからいいのか?日本書紀には「海石榴」の字を当てることから海上なんだろうか。雨が玉椿が落ちるようなイメージか?「きらきら」の当たり前のオノマトペを使って当たり前じゃない句を詠んでいるという。

てぬぐいの如く大きく花菖蒲  岸本尚毅

『鶏頭』

花菖蒲が描かれているてぬぐいではないのか?比喩に驚かされるという。言葉のマジックみたいな感じか?

青大将実梅を分けてゆきにけり  岸本尚毅

「実梅(みうめ)」と読むらしい。青大将も季語のような気がする。実梅も季語だよな。

写生句の極地だという。ここでの季題は「実梅」で花鳥諷詠。それが写生の言葉と対立・緊張関係にあるという。それが客観写生。わかったようなわからないような。

雉子鳴くつめたき富士と思うかな  岸本尚毅

『瞬』

これは実際に聞いたのかな。小林恭二『俳句という遊び』で最高点の一句だという。よくわからん。今日本を借りてくるか。句会を見るとこの句が最高点を取るのは最終戦なのだ。それまでは無難にまとめてトップなのだが決定打に欠けていた。対照的なのが坪内稔典で、最下位なのだが奇抜な句が多く逆選(駄目句としてマイナス点になる)が多い。それだけ冒険的な句が多いのだろう。岸本尚毅が詰まらないと思うのはこの差だと思う。無難に世渡りする人みたいな。頭がいいから最後になって修正して周りに受ける句を作っていくのだろう。

盆の波ゆるやかにして響きけり  岸本尚毅

『健啖』

師事していた師波多野爽波が亡くなったときの句のようだ。波多野爽波から有馬朗人に師事したという。挨拶句への開眼とあるな。そう言えば句会でも挨拶句が多かったような。それが座の俳句ということか?

その中に君居らぬこと秋霞  岸本尚毅

田中裕明の「ゆう」に参加して、亡くなったときの句だった。個人よりも関係性の文芸ということで花鳥諷詠の虚子を継ぎ挨拶句(忌日句)が得意とするような。

櫂未知子のボディコン時代というのが想像出来ない。けっこう際どい性的な俳句を詠んでいた。この中で一番の革新タイプか?それでも、体育会系かな。今だともっと前衛的な人がいると思うのだが、この時代に歌壇のように俵万智が登場してこなかったのが大きいかな。そう言えば夏井いつきが出てなかった。


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