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『悪の花』北村太郎

『悪の花』北村太郎

WOWOWオリジナルドラマ『荒地の恋』を見て、ねじめ正一の原作本読んだ後に「荒地」の詩人北村太郎に興味持って詩集を図書館で借りました。

この『悪の花』が書かれた時期が『荒地の恋』の田村隆一の妻と不倫関係にあり、家を飛び出して新しい生活をしようとしていた時期でした。その決意の中で『悪の花』の30の詩はもう一度詩人としての自分自身を見つめ直したものでもあり、どうようにどうしようもない人間の欲望(愛とか恋とかも)を受け入れていく過程で当時の社会を見つめ直し理想を説きたかったのかもしれないです。

しかし、それはボードレール『悪の華』で描いた世界と変わるものでもなかった。その中で一日一日を詩を創作することで新たな生活を見出そうとする詩人が伺えます。

1詩ー死

久しぶりに写経




いま
1と書いた
この悪の花は30でおわるはずである

一日は
鳥たちの声で始まる

そのように
詩が始まったら何とすてきなことだろう
むろん
そんな時代は終わってしまったのだ

詩は何千行
何万行書いたとしても
どれほどの意味があるのかと思う
まして散文など
  (略)
一日の終りを
鳥たちは
沈黙してしまうことだけで示す
詩は一日中ひらいている死の目ゆめの目

2言葉

言葉は「抽象」だと詩人はいう。具体的なものを伴わないから空回りする言葉ばかりが徘徊する。特に言葉だけのネット社会では。だが人間は言葉を頼りにして生きてきた。それは具象との関係性において、驚きや悲しみや怒りなどである。沈黙することはできなかったのか?言葉を知ってしまったら誰かに投げかけるだろう。その言葉が私に返ってくると信じて。

3沈黙から反転する言葉の快楽

沈黙の思考が反転して爽快な言葉になるっていう感じを味わいたい。沈黙の言葉、海の氷、爽快になるその上を歩く。

ライフル銃の銃声、あらゆる季節の中でもっとも冬が抽象的。

4世代間ギャップ

ねじめ正一『荒地の恋』で娘の優有子と家に出たゴキブリを追いかけ潰すシーンがあった。その時の詩かなと思った(ねじめ正一がそう読んだのか?)

詩人がひねりつぶすものが次々に出てくる。それは戦争で相手をひねりつぶす言論と同じだ。その詩人の感情が娘との対話を必要としているようだ。頑固爺さんの詩人とそれを静かに聞く娘の構図。ドラマではふっと笑い合うのだが、そんな笑いもあるのかな。

5芝居の部屋

芝居の部屋は、一つだけ壁がない部屋で、それが観客という壁なのだという。この思考は面白い。そうなんだその部屋の演技者は表現者ということなのか。観客の分厚い壁。

その壁に目を閉じていれば孤独な部屋にいられるのだが、目覚めることというのは、そういう他者の壁を意識することなのかもしれない。

6沛然(はいぜん)

沛然(はいぜん)。読めない漢字があったのでメモ。雨が一時に激しく降るさま。

目覚めたら
沛然たる響きにまじって
ヒグラシと
オナガの声が聞こえた(北村太郎『悪の花』6)

オナガが叫んでいる。どうしてオナガの叫びは危機感を煽るんだろう。まあ、そういうことなんだが。

7悪

「人間はかならず病む」病むということが「悪」とされ排除されていく。病める花々は、ボードレールの専売特許じゃないと詩人はいう。

8蛇

今日(10.19)「巳の日(みのひ)」だという。弁財天の使いである白蛇は、金運アップということらしい。

詩人のヘビは地獄のヘビ。地獄の炎のヘビというイメージなのか。サラマンダー。スパイダーマン第10話「炎地獄にへび女の涙を見た」が検索して出てきたがよく読むと違った。

寒冷地獄にヘビは逆に巻き付かれ堕ちる。ヘビの身体は温かいのだという。キリスト教の人間を誘惑するヘビのイメージだろうか?

9秋の雲

落ち葉を染める金色。夕焼け?

10時計の分解

時計の分解をやったことがあるだろうか?止まった時計。分解して複雑に絡み合う歯車。それをどう戻していいのかわからず空っぽのままにした。針のない時計は、時計じゃない。「絶望感の刻々の味わい」それはわかる。

11暗澹と

デタント。米ソデタント。ゴルバチョフとレーガンのあの時代から続いていたんだな。あの時はソ連は解体したが、ロシアはどうなるのか?

冬の夜。今日(2022.10.20)は寒い!

12過激な激情

詩はどんな優しい叙情詩でも過激な激情を持つのが詩の本質である。死 愛 永遠 恐怖 魂 罪などの卑しい語を使わないで表現したいと詩人はいう。

13存在論

最後の文章に笑ってしまった。「ピッコロの最後の装飾音」。これは楽器のことを言っているのだが『ドラゴンボール』のピッコロを連想して、最後の雄叫びの装飾音かと思ってしまった。

14メディア

あらゆるメディは愚劣である。マクルーハンは「メディアはメッセージである」メディアの登場によって人間の質がかわってくる。詩人の時代は新聞・雑誌メディアだけど、今はネット・メディア。ますます愚劣か?

15ラブソング

イニシャルでW・Sと書かれるとその人物を探したくなる。身内のものにはわかるんだろうな。あきらかにこれはラブレターの返信の詩である。詩と書いてあるから詩なのだろう

16逆説

「悪」は「善」を想像できない
(W・H・オーデン)

「悪」は「善」を創造できるが
「善」は「悪」を創造できない

神の巨大な肛門から
詩は生まれた 死も

17内輪差

乗用車の場合それほどでもないのだが、トラックは内輪差が大きい。イメージ出来ていると思っても実際には誤差が生じる。大きな言葉ほど人を傷つけるということか?

18暗い水

デジャヴュの反対。予知夢の反対だから夢予知か。ちょっと違う過去の禍に取り憑かれること。脱出したと思ってもトラウマとして残っている傷。

「仄暗い水の底から」

19さまよえる魂

ますますホラー映画だな。詩はそういうものかもしれない。詩ー死。言霊。呪術。呼び覚ます魂。

20寄り目

周りが見えないということ。一点だけに集中してしまう。それがloveと詩人はいう。そして、現実に目を覚ます。どんどん目が離れていって広がってしまう。これも見えてないことになるのかな。

21数学問題

パソコンで数学問題出すのは難しすぎる。「(a+b)²=a²+2ab+b²」グーグル日本語では出ないでマイクロソフトの日本語入力で出たけどパソコンでしか見れないようだ。

これは恋の方程式として上げているのだが、計算式(論理)では解決出来ない人間の欲望があるということかな。

22七つの詩集

それまでの詩人は七つの詩を出し、それを再構成しようとしているという。その結果出来たのがこの詩集なのか?再構成じゃなく、そこからの旅立ちということかも。

23嫋嫋(じょうじょう)たる余韻

詩人は難しい漢字を使うので読めないし表記も困る。これは「余韻嫋々」という言葉があった。「余韻が長く響いて絶えないさま」

24花

乱雑な部屋に花。詩人ならではですかね。それもファンからプレゼント。枯らしてしまうのだけれども。花を部屋に飾ったのは、新車を買ってディラーから花束を貰って以来ないですね。それ以外にも一人暮らしではないけど、ベランダの水草水槽で花が咲いている。メダカを飼っていたのですが、今はメダカはいない。亀だけです。

花の名前は覚えておいたほうがいいというか最近はグーグルフォトのレンズで花の名前がわかるので、スマホで花はよく撮ります。虫はなかなか出会えないし、花ぐらいしか撮るものがないのかもしれない。

パスカルの言葉を引用している。「パンセ」ですかね(それしか知らない)。

「人間は、もし気が違ってないとしたら、別の仕方で気が違っているのである」(前田陽一訳)

25忍耐なんて美徳じゃない

この頃から忍耐と言われてきたのかな?先代の貴ノ花親方ですよね。花田兄弟のお父さん。その叔父さんが柏戸だった。柏戸の時代は大横綱大鵬がいて、忍耐するしかなかったのです。その流れかな。伝統芸能だから。貴乃花が曙に優勝決定戦で勝ったときは日本中が保守国家になったようでした。

その頃からどんどん保守的になっている。今この言葉が響いてきます。

26半分死んだまま生きている

これは年齢によるのでしょうね。わたしなんかいつ死んでもいいと思うけどなかなか死なない。案外人間はしぶといものだなあ、と生きています。この歳になって自殺はかっこ悪い。自殺に憧れていたのも27歳クラブを過ぎたら、もう惰性で生きるしかない。革命家でもないんですね。ただ自分の人生だけは自分でケリを付けたいと思うだけです。詩人の受け売りです。

27猫は自動車が好きらしい

これは暖を取るために車の下に潜り込む猫のことを言っているのですね。だから始業前点検は大切です。エンジンルームに潜り込むこともあるそうです。別にオイルやガソリンの匂いが好きっていうわけではない。

猫の轢死体は、ドライバーだった頃よく見ましたけど一番よく見たのは狸かな。『平成狸合戦ぽんぽこ』が起きるはずです。そう言えば以前飼っていた猫が車に轢かれれてから、猫は飼えなくなった。その前に実家が火事になって猫の棲む家がなくなったんですね。だから、車に飛び込んだと母が言ったのですが、違うと思う。悲しくなるのでこの話は止めます。「ネコは女で、車は男」単純すぎるけど、そうとも言えるかも。わたしのネコはオス猫でした。

27トウゾクカモメ

トウゾクカモメの悪さはさんざんTVで見せられますが、そのトウゾクカモメも住めない世界にするのは人間なのだから、トウゾクカモメを悪とするのは人間本意の考えですよね。

カモメが鳴いた日という歌を聴きたくなりました。そうだ、昔「カモメの歌」は多いのに「うみねこの歌」がない」という女がいました。何も言えなかった。うみねことカモメの区別もつかなかったから、うみねこは横浜にいるんだろうか?いつも飛んでいるのはカモメだよな。カモメより鴉が悪とされるほうが許しがたいですよね。カモメだって黒ければ鴉だった。これで短歌が作れそうだ。

29傲慢

人間の傲慢さは欲望の文明を築いてそれが危機にひんしている。この世で一番可愛いのは太った赤ん坊だと詩人がいいます。それは太った赤ん坊が欲望だけで生きても許せるから。母親から生を奪うぐらいだから。それも許されない社会になって子供を産まない人が増えた。それは自然の流れだと思います。人間は静かに消えて行くのがこの世界のためだとおもってしまう。

30

いま30と書いた
締めくくりに十四行詩をいろいろ書いてみたが
うまくいかなくてやめた
何事も終わり方はむずかしいが
いったい終わりというのはあるのだろうか
  
北村太郎『悪の花』「30」より

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