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パリの映画だけどドイツ人のハリウッド作品

『陽気な巴里っ子』(アメリカ/1926)監督エルンスト・ルビッチ 出演マーナ・ロイ/パッツィ・ルース・ミラー/モンテ・ブルー/リリアン・タッシュマン ピアノ生演奏:柳下美恵

フランス映画だと思ったらドイツ人監督のハリウッド映画だった。ルビッチは名前は有名だけど、グレタ・ガルボ主演『ニノチカ』を観たぐらい。コメディは初めてだけど面白かった。ドイツ人のルビッチだから、フランス人をお馬鹿キャラの男と尻軽女として描いていたとか。

昨日ブレヒト劇を観たが、ダンスホールの馬鹿騒ぎと芸人の男(シーク教徒?)が刑務所に入れられてしまうのが、30年代のベルリン・キャバレー時代とその後のナチス時代を象徴しているようで。ルビッチにその意図はなかったのかもしれないが、身代わりで罪のない芸人が逮捕されるのはナチスを暗示しているような。

ルビッチはマックス・ラインハルトの師事して、ユダヤ人を演じることが多かったと。ブレヒトもライハルトの劇団に入っていたので、一緒にやったことがあったかも。ベルリンの表現主義時代の人だからそういう影響関係もあっただろう。映像的に面白かった。

ヨハン・シュトラウス/歌劇『こうもり』の原作で舞台劇として演じられたというから、ベルリン時代だと思う。そういう中で切磋琢磨してきた監督が、ハリウッドに行って大衆映画の基礎を作るのだった。

ルビッチの喜劇は、今でも笑える。フランス人を揶揄っているから。医者で妻に頭が上がらない夫と道を隔てた芸人夫婦。最初窓から上半身裸のシーク教徒役の男を認めるのだ。そして、夫が裸でいるのはけしからんと文句を言いに行く。フロイト精神分析で窓は女性器、ステッキはペニスを象徴しているのだいう。妻のほうは豊満系のエロッティク・タイプ。刺激的な衣装での逆立ちシーンやダンスホールでの大根足。医者の妻の方は真面目タイプの対比。夫は二人共どうしようもない女たらしなんだが。そこがフランス人。

映像は最初は露出オーヴァー気味で白が飛ぶ感じの画面だったが慣れればそうでもない。ダンスホールのシーンの幻影的な多重露出とカメラワークがすごかった。ダンスホールというよりもディスコ会場のような人混み。その中でジャズの演奏で当時流行だったチャールストンやスイング。今だとクラブでカラーボールの点滅だけど、それに劣らない喧騒感。ピアノの生演奏もノリノリでした。

ダンスコンテンストで優勝して、ラジオの勝利者インタビューで浮気がバレるというオチ。シャンパンで夫は酔っ払い、仮面を付けた妻に気が付かない。『パルプ・フィクション』の逆のパターンだった。

「ルビッチタッチ」は粋で軽妙洒脱な艶笑喜劇のことらしい。まさにこの映画はルビッチタッチだった。


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