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橋姫の霊が夕霧を迷わせた?

『源氏物語 47 橋姫 』(翻訳)与謝野晶子(Kindle版)

平安時代中期に紫式部によって創作された最古の長編小説を、与謝野晶子が生き生きと大胆に現代語に訳した決定版。全54帖の第45帖「橋姫」。宇治に桐壺帝の皇子・八の宮が世間から忘れられて住んでいた。妻と死別し俗聖のように生活する宮を薫は慕い、宇治に通うようになる。3年経ったある日、宮の二人の娘・大君と中の君を垣間見た薫はその優雅さに心奪われた。宇治には亡き柏木の乳母・弁の君がいて、薫は自分が源氏の子ではなく柏木の子であることを知らされる。

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ここからラストまでが「宇治十帖」ということだ。「宇治十帖」というから宇治が舞台なのだろう。またいきなり八の宮とか登場して、系譜を確認しなければならなくなる。いきなり光源氏の弟と言われても八の宮だからな。少なくとも8人も男兄弟がいたことになる。それは桐壺院が沢山の女御を持ていたことであり、光源氏とは異母兄弟、帝となった朱雀院とも異母兄弟であるから兄弟と言ってもそれは意識しなくてもいいのかもしれない。ただ光源氏が須磨に逃れた時に冷泉院帝(光源氏の息子)の代わりに皇太子候補として弘徽殿の太后から指名された人であるが、光源氏が京に戻ると宇治の山荘に引きこもるしかなかった不運な宮であった。

その都落ちした八の宮に二人の娘がいて、長女を大君、次女を中の君と呼ばれて、母君の死後も父宮が山奥で育てていた。父宮は出家したかったのだが娘がいるので出家できずにいたが信仰心があった(不運な人だっただけに)。

そこで宇治山の僧侶とも交友を続けて、京に招かれた阿闍梨が八の宮の噂をしていたところそれを薫が聞いていたのである。薫は八の宮の不運と信仰心に惹かれて会いに行くのだが生憎留守で二人の姫君の演奏を聴き興味を覚える。

八の宮と薫は後日対面し、八の宮は娘たちの後ろ盾をお願いする(どっかで聞いた話)。その夜明けに、かつて柏木に仕えていた弁の尼から薫の出生の秘密を打ち明けられる(今まで知らんかったのか?)。そして女三の宮と小侍従の手紙を託されて秘密を知る。そして、出家して薫を産むのであった。

(女三宮)
目のまへにこの世をそむく君よりもよそにわかるる魂(たま)ぞ悲しき
(小侍従)
命あらばそれとも見まし人知れず岩根にとめし松の生(お)ひ末

光源氏のドンファン的性格を匂宮が真面目な性格を薫が受け継いだとされるのだが、薫と光源氏は直接の関係はないのだから薫は誰の性格を受け継いだのだろう?女三宮だろうか?ここは血筋よりも環境によるものが大きいと考えた方がいいのだろうと思う。その事情は、この事件が明らかになるまで薫は父親を探していただろうし、一番それを感じていたのは夕霧ではないかと思う。実に優しく面倒見がいい叔父さんを父親だと思い込むのは自然だと思うのだ。しかしここで、実の父親を知ったということだろう。それはうすうす感づいてはいたが、夕霧が面倒見が良かったので夕霧を父親だと思っていたかもしれない。それで夕霧の性格を受けつだと思うのだ。薫の内向性は系図からは説明がつかない。むしろ、それでも恋心が起きてしまうところは光源氏譲りなのかもしれないが。

橋姫の題は『古今集』の「宇治の橋姫」からだという。

さむしろに衣かたしき今宵もや 我をまつらん宇治の橋姫

橋姫もいろいろあるらしい。和歌で歌われる橋姫は伝承よりもロマンチックな存在なのだという。そして薫はその「宇治の橋姫」になぞらえて和歌を読む。

(薫)
橋姫の心をくみて高瀬さす棹のしづくに袖ぞ濡れぬる
(大君)
さしかへる宇治の川をさ朝夕のしづくや袖を朽(くた)し果つらむ



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