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権力は腐敗する、絶対権力は絶対腐敗する

『コレクティブ 国家の嘘』(ルーマニア、ルクセンブルク、ドイツ/2019)監督アレクサンダー・ナナウ 出演カタリン・トロンタン/カメリア・ロイウ/テディ・ウルスレァヌ

解説/あらすじ
2015年10月、ルーマニア・ブカレストのクラブ“コレクティブ”でライブ中に火災が発生。27名の死者と180名の負傷者を出す大惨事となったが、一命を取り留めたはずの入院患者が複数の病院で次々に死亡、最終的には死者数が64名まで膨れ上がってしまう。カメラは事件を不審に思い調査を始めたスポーツ紙「ガゼタ・スポルトゥリロル」の編集長を追い始めるが、彼は内部告発者からの情報提供により衝撃の事実に行き着く。その事件の背景には、莫大な利益を手にする製薬会社と、彼らと黒いつながりを持った病院経営者、そして政府関係者との巨大な癒着が隠されていた。真実に近づくたび、増していく命の危険。それでも記者たちは真相を暴こうと進み続ける。一方、報道を目にした市民たちの怒りは頂点に達し、内閣はついに辞職へと追いやられ、正義感あふれる大臣が誕生する。彼は、腐敗にまみれたシステムを変えようと奮闘するが…。

これは凄いドキュメンタリー映画だ。ルーマニアの医療崩壊。ライブハウスが火事になり、火傷で死亡者が大勢いたのだが、収容された火傷専門病院での実体が恐ろしかった。消毒液が規定の1割しかアルコールが入ってなくて役に立たない。その背景に大病院と医療会社の癒着があった。

こういう事件のありうることで医療会社のトップが自殺という顛末になるのだが、被害者の会を報道するジャーナリストたちによって、大病院の医療崩壊の実体が次々に明らかにされる。それは国家との癒着であったり、理事長が賄賂で建てた病院で儲けて、監査機関である国家に賄賂する。日本の医師会みたいな?

管理する国家の保健省も癒着まみれで、改革派の新大臣が就任して次々に問題が明らかになるのだが。被害者の会を取材する厳しいメディアの追求の中で出てくる数々の癒着の構造と杜撰な医療システム。入院患者の傷口に蛆が湧いているとか、本当に目を覆いたくなることばかり。

追求するジャーナリストが厳しすぎて医療者が仕事出来ないとかの意見もあり。ただ下位にいる医療従事者からの告発なのだ。理事長の賄賂とか火傷事件のときも医療品を買い占めて儲けていたとか。火事場泥棒的な根深い構造があったのだ。政府と大病院と医療会社の癒着は、利益優先のモラル無視の構造的なシステム的な問題だった。

あまりにも酷い病院なので重傷患者を海外の病院で治療するという大臣に対して、政治的な圧力が。保守的な市長が海外で金がかかる治療より国内の安い病院に任せるべきだとか、TVメディアも市長の意見をそのまま流す(このへんはどこのメディアも一緒なのだと思った)。その病院改革をストップさせる圧力の中で国政選挙。結果は低投票率で政権党(社会民主党)の勝利だった。

日本と似ているというか、日本にはそれほど厳しく追求するメディアもなかった。マフィアが関係者を脅すとか、そういう癒着もある世界だった。大臣のお父さんが選挙結果を知って、お前はすぐに海外に出た方がいいと(どこも一緒だ)。向こう30年この国は変わらないというのセリフ。

日本でもコロナ禍で医療崩壊が起きたことは忘れがちだけど、国会議員だから優先的に入院できるとかあったのだ。その外で病院に入院出来ずに医療関係者や保健所の苦労などの後追い番組をNHKでもやっているが、今は落ち着いているのでそれほど問題化されていない。日本のジャーナリストもこの映画を観てほしい。

【そえまつ映画館】#40 「コレクティブ 国家の嘘」を映画評論家の添野知生と松崎健夫が語る! https://youtu.be/GksPqmDcCwQ

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