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交通事故を減らすため、電通がおこなった伝説のキャンペーン

子どもたちが横断歩道を手を上げて渡る光景。これは大手広告代理店である電通がつくったものであること、あまり知られていません。

電通といえば、東京オリンピック問題や労働環境問題で、すっかり世間のワルモノになってしまいました。しかし昭和の頃は、まさに電通が時代をつくっていたと言っても過言ではありませんでした。

1960年初期、国民の多くが自動車に乗るようになりました。しかし、まだ交通ルールは未整備な時代。当然、交通事故も多発します。

1955年から10年間での事故死者は、日清戦争の死者を上回ったことから「交通戦争」と揶揄されている程でした。

この状況に頭を悩ませていた警視庁は、交通安全の意識を高めるため、電通へキャンペーンを依頼しました。

電通は、まず死亡事故の3割が横断歩道で起きていることに着目しました。そして「手を上げて・横断歩道を・渡ろうよ」という標語をつくり、町中に掲出しました。

キャンペーンの予算は、それで消費してしまったそうなのですが、担当のディレクターはもう一工夫仕掛けます。

電通といえば、テレビメディアを独占的に扱うメガエージェンシーですから、その力を発揮しようと考えます。そこで、その標語をCMソングにして、在京キー局へ流してもらうように働きかけました。もちろんCMの入っていない時間帯の穴埋めとして。

広告のセオリーは、ひとつのシンプルなメッセージを飽きるほど繰り返すこと。何度も同じメッセージを聞いていると、人は必然的にそのメッセージに影響されるようになります。

やがて、この交通安全の標語も徐々にお茶の間に浸透していき、お笑い芸人や全国区のテレビ番組が、その標語でパロディをするほどの広がりを見せました。

当初、キャンペーンの予算は500万円だったそうです。これは到底CMをつくって流せる予算ではありません。しかし担当者の一工夫によって、CMになり、全国のお茶の間に届きました。

もちろんこの施策だけで、交通事故が減少した訳ではありませんが、道交法やインフラの整備により、1970年から死亡事故減少に至るきっかけになったと言えます。

メディアの王者だった電通が、私たちの暮らしに及ぼした影響は計り知れません。このエピソードも、その影響力の一端として感じていただけるのではないでしょうか。


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