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約4年間気づかれなかったDMがすべてを繋げたーー21歳「刀グラブ」創業者と、DeNA・バウアーの運命の邂逅

刀グラブ
インスタグラム:https://www.instagram.com/katana.jp.official/
HP:https://katanajapan.base.shop/

現在大学4年生の21歳、櫻井洋輔さん。彼が15歳の頃からインスタグラムで運営する英語版野球メディア、Baseball Lifestyles。櫻井さんはあるDMが届いていることに気がつき、2023年3月13日に、慌ててすぐに返信をした。

その理由は二つ。

まず、そのDMが約4年前の2018年12月に届いていたものだったから。

もう一つは、その送り主がトレバー・バウアーだったから。

「当時(2018年)、私自身もまだ高校野球をしていたので、ちょっと時間がなくて。まさかのバウアー選手からの問い合わせを無視してしまうという(笑)」

櫻井洋輔さん

櫻井さんはこれまで9年間アメリカに滞在しており、その間に前述の野球メディアを開始している。自身も幼い頃から野球をプレーしており、帰国後も高校で野球を続けていた。

そのさなかに届いたDMは、「あなたのページに興味を持った。いくつか質問をしてもよいか」というものだった。

約4年越しにDMを返しても、特に何も起こらないことが普通であろう。しかし櫻井さんの場合、2018年ではなく2023年にDMを返信したことで、奇跡が続いていった。

櫻井さんは、2022年4月にオリジナルグラブブランド、「刀グラブ」を立ち上げている。その時の目標の一つが、「自身のパフォーマンスである”Sword Celebration”など、”Sword” =刀のイメージを自ら押し出しているバウアーに、『刀グラブ』を使用してもらうこと」だった。

そしてバウアーが日本でプレーすることが発表されたのは、櫻井さんがDMに返信した日の翌日、2023年3月14日だった。

そんな偶然が重なり、まるで最初から決まっていたかのように、二人は直接対面し、会話を交わすこととなる。

櫻井さんは約4年前のDMに、「刀グラブ」の詳細を記して返信した。それに対して興味を示したバウアーの代理人、レイチェル・ルーバ氏から返事があり、2ヶ月間ほど連絡を重ねていく。

そしてついにDeNA球団施設で、バウアー本人に「刀グラブ」のプレゼンを行うことが決まった。だがその前日まで、忙しなく連絡を取り合う形になったようだ。

「球団施設に入る許可が必要なのですが、前日の夜に通訳の方に繋げていただいて、夜11時に『明日どうすればいいですか』みたいなやりとりをして……」

バタバタと前夜まで打ち合わせを行い、櫻井さんは、はるばる兵庫から横浜に向かった。サンプルグラブを三つ携え、ブランド共同創設者、山崎力さんと二人で施設に赴き、バウアー本人の前で30分間、英語でのプレゼンを行った。

対話式でのプレゼンになったというが、バウアーはどのようなところに関心を持っていたのだろうか。

「デザイン面もそうですし、私自身がなぜブランドを立ち上げたのか、どういった経緯で立ち上げたのか、そういったことへの質問がすごい多かったかなと。勿論グラブに対しても、他メーカーと違う点などのこだわりを訊かれて『すごい、ここまで関心があるんだ』と」

日米で野球をプレーすることで知った、日本のグラブ製作技術の素晴らしさを、世界に発信したい。櫻井さんはバウアーに、そうブランドのコンセプトを語った。侍が自分の刀にこだわるように野球選手もグラブにこだわってほしい、と。バウアーの道具へのこだわりとも深く共鳴したのだろう、「刀グラブ」採用が決まった。

バウアー本人を目の前にして、櫻井さんはどういった印象を持ったのだろうか。

「すごい優しい方で、とにかく野球が好きなんだなっていう。グラブも、自分のパフォーマンスに一番繋がるものを選びたいんだなっていう思いは強く伝わってきて」

プレゼンを経て、バウアーは櫻井さんたちが用意してきたサンプルの中から一つを選ぶ。紐の色を変えて欲しいという要望を受け、櫻井さんは後日、紐だけを変えたグラブを送った。

そして4月28日のイースタン・ロッテ戦で、実際にこのグラブが使用された。「かなりイケてるね」と満足そうにグラブを受け取った場面も、4月30日分の彼のYouTube動画に記録されている。

翌週の5月7日分の動画では使用感を語り、その時点でのグラブのお気に入りランキングを発表。「刀グラブ」は有名メーカーを抑え、堂々の2位にランクインした。

しかし動画内で、サイズについて「少し小さい」とも評されている。プレゼンの際にサンプルに触れたはずなのに、なぜ……?

「プレゼン当日、グラブをはめて選んでいただいて、『このサイズが一番いい』とおっしゃっていたんですよ。到着してから『やっぱり小さかった』みたいな話がありまして(笑)」

実際に使用してからの更なる要望を受けて、カスタムグラブが製作されることが決まった。7月中に直接渡す予定になっているという。

日本の技術の丁寧さを世界に発信していきたい櫻井さんと、試合後分析から体調管理まで、繊細なまでの野球へのこだわりをYouTubeで見せているバウアー。運命的な出会いで終わることなく、末長い関係になることを予感させる。

櫻井さんはバウアーからのDMに約4年越しで気づいたが、結果としてこれ以上ないタイミングの出来事となった。

野球の神様はきっとすべてのお膳立てとして、バウアーのDMを約4年間、櫻井さんの目から隠しておいたのだ。

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