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ベイスターズにとって送りバントとは何なのか

 ベイスターズの試合で攻撃中、ランナーが一塁の状況、投手に打席が回ってくるとき。多くのベイスターズファンはこう考えるでしょう。「普通なら送りバントだけど、またヒッティングさせるんやろなあ……」と。

 昨日の記事で盗塁を扱いましたが、送りバントも盗塁と同様に、実施回数はセ・リーグ最少の27となっています(9月7日試合終了時現在)。

 今季7月の連敗中、セオリーなら「送りバントが行われるべき」と考えられる場面で打者がバントをしないことが、ファンの間で物議を醸しました。その頃の試合では、打者がバントの構えをするだけで球場がどよめく、なんてこともありました。

 ここでは、ベイスターズにとって送りバントは何なのか考えていきたいと思います。

送りバントは勝つ上で本当に有効なのか

 そもそもバントを多くすれば、勝てるのでしょうか。昨日書いた盗塁に関する記事で、セイバーメトリクスの観点では、盗塁の有効性は疑問視されていると書きました。

 結論から言うと、送りバントもやや有効性が疑問視されています。

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 この表は、状況ごとのバントを行った際の得点期待値です。蛭川晧平著「セイバーメトリクス入門」(水曜社)p.45より引用しました。

 得点期待値とは、「特定のアウトカウント・走者状況から、そのイニングの終わりまでに見込まれる平均的な得点数」のことです。その状況における、得点の見込みとも言えます。

 この表から、得点するために行った送りバントが、結果として期待できる得点を少なくしてしまっていることが分かります。

 またこの「セイバーメトリクス入門」では、分析の結果、打率が.103より高い打者は送りバントより強行した方がいいとされています。

 一方、ヒッティングを続けて相手にバントに対する警戒心を薄くした上で、意表をついてバントすることの効果までは否定していません。「ある種常識的な結論」としながらも、こう書かれています(同書p.52)。

「バントは打力の低いときにだけ有効だが、相手の出方もうかがってたまには意表をつくことも有効」

 ベイスターズ首脳陣も、一般的なセオリーよりデータを重視しているのかもしれません。

送りバントをした方がいい打者とそうでない打者がいる?

 では、ベイスターズにとって送りバントはどのように行われているのでしょうか。今季、送りバントを行ったベイスターズの選手を次のようにまとめました。

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 この表は、こちらのサイトにあるデータをもとに作成しました。9月7日試合終了時現在のデータです。

 打率が.103より高い打者は、送りバントより強行した方がいいとされていましたが、送りバントをした野手に打率.103以下の者はいません(そもそも、打率.103以下だと試合に出られる可能性は限りなく低いでしょう)。投手は、いずれも打率.103以下です。

 そこで気になったのが、今永昇太や井納翔一といった「打てる投手」のことです。

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 打率.103以上の投手はこの三名です。いずれも、送りバントはまだ行っていません。打力のある投手には送りバントはさせない、といった方針があるのかもしれません。

「ベイスターズは送りバントをしてこない」といったイメージを対戦相手に植え付ける。そして意表をつくために、野手に送りバントをさせる。打力がある投手には、送りバントはさせずに強行させる。そんな意図があることも考えられます。

バント数がイースタン・リーグでトップのベイスターズ二軍

 しかし……と、思ってしまうことがあります。

 昨日の盗塁についての記事で、ベイスターズ二軍は盗塁数がイースタン・リーグでトップと書きました。盗塁と並び、バント数もリーグトップの42です(9月7日試合終了時点)。

 二軍の送りバントの多さも、盗塁と同じ背景があるように思います。つまり、「一軍に確実なバント技術を持った選手は多くない。その状況を改善するため、育成の場でもある二軍では若手にバントのサインを出し、技術向上を目指している」。

 当たり前ですが、バントで意表をつくためには、バントをきっちり決めないといけません。
 先程、対戦相手に「ベイスターズは送りバントをしてこない」というイメージを植え付ける作戦をとっているのではと書きましたが、そもそもバントがうまい選手が、ベイスターズにはそこまで多くないのかもしれません……(小声)。ある意味、苦肉の策としてイメージ戦略をとっているのかな?と感じないでもないです。

まとめ

 セイバーメトリクスの観点では、打力の低い打者以外ではバントは有効でないとされています。データを重視するというベイスターズも、それを踏まえているのかもしれません。実際、打力のある投手には送りバントをさせず、ヒッティングを強行させています。

 野手に送りバントをさせるときは、相手の意表をつくときなど、何かしらの戦略に基づいている可能性があります。

 ただ、このバントの少なさは、バントを得意とする野手が少ないからでは……?という疑念も捨てきれません。今後、どのような場面で送りバントがされるのか、より注目していきたいところです。

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