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熱力学第1法則

前回のふりかえり

 前回は「エネルギーとは保存するように作られた量である」という話をしました。エネルギーの量が保存するように計算するためには,お金と同じように貯蓄量(状態量)と流入出量(移動量)の区別をする必要がありました。

 状態量は過去の歴史に依らず,今の情報だけで決まる量です。移動量は経路に依るので,どの経路を選択するかによって量が変わってきます。ところがエネルギー的な考え方を使えば,移動量を変化の前後2点間の状態量のみで表すことができます。そこで,物質内部に蓄えられた「内部エネルギー」についても,エネルギー的な考え方を当てはめていきましょう。

内部エネルギーを考える

 私たちは物質内部に蓄えられたエネルギーを何とか取り出したいと思う。そこでまず,気体はその内部に「内部エネルギー$${U}$$」を持つ,と想定してみます。

 高校物理における内部エネルギーは「物質を構成する分子の持つ運動エネルギーと位置エネルギーの合計」と説明されることが多いのですが,今は原子や分子のことを考えるのはやめておきたいのです。

 内部エネルギーは運動エネルギーでも位置エネルギーでもない,新しい種類の謎のエネルギーなのだと考えておきましょう。また,内部エネルギーと中学理科で学ぶ化学エネルギーの意味は似ていますが,違う面もありそうなので,後で考えることにしたいです。

熱力学的平衡状態と不可逆過程

 さて,次の目標は,始状態と終状態の内部エネルギーを状態量で表して,2点間のエネルギー差と移動量の関係を表すことです。

 まず,物質の状態を決める状態量として,温度$${T}$$・圧力$${P}$$・体積$${V}$$があります。熱力学では,不均一な物質を扱いません。なぜなら,これらの状態量が定義できなくなってしまうからです。

 したがって,物質に外部から影響を与えた後,ある程度の時間が経過して,物質がある一定の均一な状態に達するのを待ちます。この均一な状態を平衡状態と呼び,それ以外の状態を非平衡状態と呼んで区別します。

 例えば,気体の入ったピストンを急激に圧縮したとしましょう。そうすると圧力が一瞬,不均一な状態になります。ピストンの動きを止めると,生じた圧力は容器全体にわたって均一になっていきます。この状態を平衡状態と呼び,その場合のみ,系の圧力が定まります。

 温度についても,同じことが言えます。ビーカーに入った室温25℃の水は平衡状態にあります。次に,ガスバーナーで加熱を始めると,ビーカーの底は熱くても,水面はまだ熱くありません。やがて対流も始まるでしょう。このようなとき,ビーカー内の水全体の温度は決まりません。これが非平衡状態です。

 ところが,加熱をやめてある程度時間が経つと,再び水が均一な状態になります。この時,水の温度は,例えば80℃と決めることができます。新しい平衡状態になったのです。時間の経過によって均一になった平衡状態のみを考えることで,系の状態を少ない数の変数で表すことができます。

 始状態から終状態に変化する経路は複数考えられます。一般に,ある平衡状態から別の平衡状態に変化する過程は非平衡状態であることが多いです。これを不可逆過程と呼びます。

 化学変化も不可逆過程を経ることが多いです。ただし,変化中も平衡状態を保つように巧妙に操作した過程(可逆過程)を考えると,移動量の計算が容易になることがあります。これについては後で説明します。

平衡状態と非平衡状態

熱と仕事は移動量である

 移動量は2種類しかありません。前回,仕事$${W}$$は移動量であると述べましたが,もう一つが熱$${Q}$$です。仕事は圧力差によるエネルギーの移動量,熱は温度差によるエネルギーの移動量を意味します。

 中学理科では「熱エネルギー」という言葉が使われているのですが,高校以上では使わない方が良いと思います。この言葉は「熱が物質の中に貯まっている」という状態量のイメージを想起させるからです。

 熱力学において,熱は移動量であると理解してください。熱の移動とは、熱という方法によるエネルギーの移動を意味します。物質の中に貯まった状態量としては内部エネルギーという言葉を使って熱とは区別します。この区別をしなければ熱力学の理解が難しくなります。

熱力学第1法則

 以上より,内部エネルギー$${U}$$は,$${P}$$, $${T}$$, $${V}$$という3つの状態量で指定される状態関数$${U[P, T, V]}$$で表現できることがわかります。

 今,私たちは内部エネルギーを保存する量として定義したいわけです。そのためには,平衡状態$${i}$$から$${f}$$に状態が変化したとき,内部エネルギーの変化量$${\varDelta U = U_f - U_i}$$を,2種類の移動量である仕事$${W}$$と熱$${Q}$$の和にすれば良いです。

$$
\varDelta U = Q + W
$$

 この式をエネルギー的世界観で表したのが下の図です。$${\varDelta U}$$は2つの平衡状態の間のエネルギー変化量であること,仕事$${W}$$と熱$${Q}$$は状態量ではないので$${\varDelta}$$がつかないことも注意してください。

状態量としての内部エネルギーと移動量としての仕事と熱

 これが有名な熱力学第1法則で,エネルギー保存則とも言います。第1法則によって,内部エネルギーの変化量が熱または仕事として外部へ現れてくることがわかるのです。

まとめ

  • 状態量を定義するため,均一な平衡状態のみを取り扱う。

  • 始状態と終状態の間の過程には非可逆過程と可逆過程がある。

  • 移動量は仕事と熱の2種類のみである。

  • 熱力学第1法則は状態量である内部エネルギーと移動量である仕事と熱を結びつけたものである。


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