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物体と物質の違い

2つの外界の捉え方

 私たちが知識を得るとき,どのような過程を経るでしょうか。まず,感覚によって対象を捉えます。感覚には視覚の他にも触覚,臭覚,味覚など,化学にとって重要なものがいろいろありますが,ここでは視覚のみに絞って考えてみましょう。

 私たちは視覚によって外界を捉えますが,大雑把に言えば「物体」と「物質」という2つの捉え方があります。中1理科の教科書では,一番最初に「物質とは何か」という見出しがあって,以下のようなことが書いてあります。

私たちの身のまわりには,いろいろなものがある。ものをつくっている材料に注目するときは,それを物質という。

中1理科の教科書「いろいろな物質」

物質に対して物体という言葉もありますが,実はその定義は中1理科の教科書「光の性質」の中に載っています。

大きさや形があって空間に存在しているものを,物体という。

中1理科の教科書「光の性質」

 身のまわりに存在するいろいろなものを捉えるとき,大きさや形に注目する捉え方が物体で,材料に注目する捉え方が物質です。人間は目を使って外の世界の動画を撮影し,そのデータをそのまま頭に入れているのではありません。実は主体的な判断をしながら,世界の一部を切り取って,概念として認識しています。つまり,私たちの外側の世界の中に物質と物体が存在するのではなく,物質とは「私が材料に意識を向けたとき」に認識される外界の一つの捉え方です。

「問い」から生まれるものの見方

 物体というものの捉え方は,どちらかというと日常生活で行なっていることが多いと思います。私たちは,外界を大きさや形に注目して捉えることが多いからです。これはコップ,あれは家,そこにあるのは本や鉛筆,というようにです。では,材料に意識を向けるとはどういうことでしょう?それは「この物体は何からできているのだろう?」という問いを持って世界を捉え直すということです。これはモノを創ろうとする人の発想です。

 古代から人類は,金属の精錬技術を使って刀剣などの武器を製造し,外敵を滅ぼして帝国を築いてきました。金や銀の金属光沢に,人は魅了されます。そして,石ころにしか見えないある種の鉱石を石炭と共に加熱して青銅や鉄を創り出すと,やはり美しい金属光沢が生じます。このような化学変化を見ると,「何からできている?」という疑問を抱かざるを得ません。

 コップは何からできているのだろう?という問いの答えとして「ガラスからできている」と言ったとき,このガラスは物質を意味します。ガラスという言葉を聞いて,思い浮かべるものは人によって様々です。ある人は窓ガラス,ある人はコップ,ある人はフラスコかもしれません。しかし,そこに共通するのは「割れやすい」とか「透明である」といった性質であり,「私は大きさや形ではなく,その性質に注目しているのだ」ということを伝える言葉が物質です。ガラスの形は変わっても,ガラスの性質は変わりません。物質とは,物体の形が変わっても,変わらない共通点に注目した外界の捉え方でもあります。

 「この物体は何からできているのだろう?」と主体的に問いかけるマインド,これが化学という学問を学ぶ前提なのではないでしょうか。

まとめ

  • 私たちは物体と物質という二つの視点を通じて外界を理解している。

  • 物体は形や大きさに注目し,物質は材料や性質に注目した外界の捉え方である。

  • 「何からできているのか?」という問いを持つことが化学を学ぶ前提である。

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