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47 雪の日

 たまたま平日の休みが雪だったので、これ幸い何をしようか思案していて、ふと「アビーロードだ!」と思いついた。
 中学の頃はビートルズに夢中で、ディスコグラフィーを眺めては、小遣いが2,200円溜まるたびに1枚ずつアルバムを買っていた。ビートルズを全部聴くまでは生きていてもいいと思っていた。(何を生意気な…)
 実家は村はずれの農家で、元は濡れ縁だった所を改装した廊下の端に私の机が置かれていた。その机の右端に置いた、2年間親に頼み続けてやっと買ってもらったポータブルステレオでレコードを聴くのが当時の日課だった。
 高校受験の時、机の手前の廊下に電気こたつを置いて、そこに籠った。入試の直前、たまたまクラスメートから少年ジャンプ(マガジンだったかもしれない)を1年分もらって、何日か徹夜で読んだ。夜中にふと「こんなことしてていいのか?」と思ったが、今更焦っても仕方ないと、そのまま読み続けた。
 それ程雪の多い地域ではなかったが、一冬に何度かは雪が降った。ちょうど今日と同じようにその日も休みで、炬燵から庭に降り積もる雪を眺めながら、何気なくアビーロードをかけていた。
 不規則な生活をしていたせいか、レコードを聴きながらいつの間にかうつらうつらしていた。多分、"I want you" の繰り返しの辺りだ。気付くと、アームのオートリターンが上手く作動しなかったレコードが空回りして、プチッ、プチッという規則正しい回転音だけが残っていた。
 雪が他の音を吸収してしまうのか、雪の日の静寂は格別だ。その雪の日にアビーロードを聴きながらするうたた寝、疲れた心と体を癒す至福の時間、まさに "Golden Slumber" だ。
 あれから、もう40年以上の時が流れている。自分に40年以上前の記憶が当然のようにあるという事実が、考えてみると何とも不思議な感じだ。雪の日には、何かの拍子に時空の扉が開いて昔に戻れるのかもしれない。人それぞれに扉の鍵があって、私の鍵はきっと「アビーロード」なのだ。

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