マスターアップへの道のり【ぼくのゲーム業界20年史】

「マスターアップ」それは、ゲーム開発のゴールです。

はぁはぁ。やっとゲームを作り終えたぞ。
さぁ、あとはお店に並べて販売するぞ!

みたいな。
一言でいえばそんなノリなのですが、ゲーム開発~マスターアップにたどり着く道のりには、様々なゲーム開発あるあるな工程があるのです。

今日は、そんなゲームができあがるまでのイベント達を紹介してみましょう。

※会社の立ち位置とか、開発するゲームの種類によっても異なるので、これはその中の一例ってくらいで楽しんでくださいね

①仕様を一通り実装する

今回はマスターアップのお話なので、いきなり諸々をすっ飛ばして、完成間近からお話を始めちゃいます。

敵とかマップとかストーリーとか、
一通り、こんなことをやろうというものを組み込んで、ゲームをスタートして、ゴールまで通して遊べるくらいの完成度のゲームをβ(ベータ)版と呼びます。

とりあえず、ゲームに入れる予定の物は全部入れた!という状態です。

切って、貼って、動かしたくらいの状況のため、
やったぜ(とりあえず)ゲームが動いてるぜ。くらいの勢いです。

ナウシカの巨神兵くらいの完成度だと思っていただければ良いです。

でもこれが意外と感慨深かったりします。

ゲームを開発していると、それぞれの開発者は章単位とかパーツ単位とかでゲームを作っているので、意外と他の人が作っている物を知らなかったりします。

そのため、「おお~、エンディングまで行った~!」という感覚は、地味に感動の瞬間です。

特に、ムービーなどは、組み込まれるのがだいぶ後半になるので、それまで「空からドラゴン登場する」とか書いてあったシーンが、実際のムービーにさし変わってたりすると「うおおお、ドラゴン出てきた!」とテンションが上がります。

②調整を行う

さぁ仕様が入ったぞ。でも、よく見てみると・・・

・なんかこの敵めちゃくちゃ強くない?
・このマップ、なんかスカスカしてるんですが・・・。
・あれ、スピーカーONにしてみたら、敵を殴る音鳴ってないっすよ!
・レベルがぜんぜん上がんねぇ。

だいたいこんな感じ。
これをプランナーやデザイナーがゲームを触って調整していきます。

この時期は「それバグじゃねぇから!調整中だから!」という言葉がよく聞こえてきます。

③デバッグする

これは、みなさん聞いたことあるんじゃないですかね。

ゲームの想定していない動作、いわゆる「バグ」を見つけては修正する作業です。

よくゲームの面白動画などで、バグが紹介されていたりましますが、開発している途中にも「マジかよ!」というようなバグや、「え、うそ。そんなの起きるわけないやん・・・」といったバグと遭遇するイベントが日々、発生します。

締め切り間際の疲労も加わり、妙なテンションで楽しくなったりもします。

~僕が出会った記憶に残るバグ3選~
①押入れの隙間を覗くと、倒れ込んでくるびっくり幽霊が、180度回転していて、押入れをぶち破って飛び出してきた江頭2:50バグ

②女の子キャラのスカートの布の計算処理がバグって、歩くたびにビロビロビローン!と鞭のように画面全体を跳ね回るパンツ丸出しバグ

③なぜか一か所だけ極端にゲームが処理落ちする。その方向には平地しかないのに。やだなにこれこわい。・・・と思ってカメラを下げたら、なぜか地中に車が一台まるっと埋まっていた埋蔵金バグ

④パブリッシャーチェック

よっしゃ!バグも取れた。これで完成
・・・と思うのはまだ早い。

ゲームが完成したらパブリッシャーの製品チェックが入ります。

■パブリッシャー
ゲームを販売している会社です。ソニーとか、任天堂とか。ゲームの企画、宣伝、販売などを担ってくれます。

■ディベロッパー
ゲームを開発している会社です。自社でROMを刷ったり、販売経路を持たないので、パブリッシャーに委託してゲームを販売してもらいます。

パブリッシャーにしてみれば、自社のブランドから出るゲームがバグだらけだったり、世間から非難を浴びる内容だったら困るわけです。
そのため、ゲームが一定の品質に達しているか、暴力や公序良俗に反する表現はないか、などの品質チェックをしてくれるんですね。

パブリッシャーの審査を待っているゲーム開発者達は、最後の追い込みの疲労と寝不足でだいたいゾンビのように燃え尽きています。マスターアップした後の休暇をどう過ごすかとか、とにかく寝たいとか、積んでるゲーム消化したいとかそんな事ばかり考えています。

そんな事を考えていると、「はい、Sバグ(進行不能。絶対修正しないといけない)Aバグ(ゲームは止まりはしないけど、重大なバグ)」とかが報告され、涙を流しながら修正にあたることもよくあります。

⑤マスターアップ

パブリッシャーの審査が通れば、無事、マスターアップ。ついにゲーム完成!です。

マスターアップの報告があると、「はい今日はもう帰っていいよ~」となり、開発者たちは出勤するサラリーマンと逆側の電車に乗り、ボロボロで帰路に着くのです。

この後、ゲームはROMに焼かれ、雑誌やTVでCMが組まれたりして、店頭に並ぶんですね。めでたしめでたし。

うちのゲーム会社では海外版も作っていたので、日本版のマスターアップが済むと、そのまま海外版の開発に移行していました。
(海外版の話もまた味があっておもしろいのでそれはまたの機会に。)

僕のはじめてのマスターアップ

ちなみに。
僕はゲーム会社に入った直後、マスターアップ直前のプロジェクトに突っ込まれました。

マスターアップ2カ月前くらいだったかなぁ。簡単なデータ調整やデバッグ作業を任されていたのですが、めちゃくちゃバグが出るんですよ。

(え、まじ??マスターアップって、これがゲームとして売られちゃうの?エンディングまで一回も通してクリアできてないけど、え??え??)

これが、僕のはじめてのマスターアップの感想です笑

その後、なんとかエンディングまで通るようにバグを修正して、パブリッシャーにゲームを提出したのですが、案の定、締め切りが延期され、ちゃんとクオリティをあげた製品に仕上げて販売する事になりました。

このあたりは大人の事情で、ソフトをこの時期に提出したという実績を作り、販売スケジュールやら何やらの調整に繋げる部分もあるみたいです。このあたりはあまり詳しくないのでよくわかっておりません汗

そして、迎えた真のマスターアップ。

「おーい、おやつ。マスターアップしたぞー。今日はもう帰っていいってよ~」

僕のはじめてのマスターアップ(2回目)は、仮眠室の毛布の中で迎えました。

ゲームを完成させる達成感

という風にゲームを1本完成させるという工程も山あり谷ありです。

でも、はじめて迎えたマスターアップの少し前。
ゲームのエンディングムービーが納品されたので、みんなで集まってムービーを見たんです。

プロのアーティストさんが歌う音楽をBGMに、流れていくムービー。
そのスタッフロールに自分の名前が書かれているのを見たときは、グッと来る物がありました。

もう一つ、新人の自分にとってすごくうれしく感じたのは、そのゲームの熱狂的なファンの方が、自分でホームページを作り「この素晴らしいゲームを作ってくださったスタッフさん達」として、全スタッフの名前を掲載してくれた事でした。

その時の自分がやったのは、少しのデータ調整とデバッグ、それくらいではありましたが、地球上のどこかの誰かが、自分が関わったゲームを遊び、楽しんでくれ、それを感謝という形にして表してくれた事。

自分はディレクターでもなんでもない下っ端ではありましたが、それでも嬉しかったです。

100万人が涙を流せるような超大作でなくて良いんです。
あぁ、今日はやなことあったなーという日に、布団の中で遊んでふふっと笑える、それくらいの「楽しい」をこれからも作っていけたらいいなと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?