問題なんてないないないぜ!

「段々と暑くなる〜路地裏の通う道さ〜…問題なんてないないないぜ!」
8月1日の朝。
8月が始まる日。
僕はサラリーマン。
仕事に向かう道中、イヤホンからは神聖かまってちゃんの『8月の駅』が流れていた。 

「問題なんてないないないぜ!」
この歌詞が好きだ。
ただ、誰が歌っても良い訳では無い。
絶対に問題なんてあるやつが歌うからこそ意味があると思う。

「問題なんてないないないぜ」

高校生。自室で割と泣いちゃうタイプ。
僕はそんな弱めの高校生だった。

当時、シンセサイザーの音が大好きで(何も考えなくても直接脳に響いてくる音で全部どうでも良くなるから)、毎晩アホみたいな検索方法だがYouTubeで「シンセサイザー」と検索していた。
例によってとても落ち込んでいる深夜、いつものように検索バーに「しんせ」と打った時、検索候補に出てきた神聖かまってちゃんを間違って押してしまった。
それがきっかけで神聖かまってちゃんと出会った。
初めて聴いた曲は『りぼん』

めちゃくちゃ気持ち悪くなった。
めちゃくちゃ嫌いだった。
めちゃくちゃ後悔した。
次の日の帰り道。
ポケットに入れた携帯からは『りぼん』が流れていた。

そんな訳でどハマりした神聖かまってちゃんは今でも聴いている。
夏になると冒頭にも記載した『8月の駅』これを聴くのが恒例になっている。

8月が始まる。
僕は暑いのが嫌い、汗が嫌い、日差しが嫌い、お祭りも嫌い、花火が嫌い、ろくな思い出はないから夏が嫌い
でも8月が大好きで、暑いのが好き、汗が好き、日差しが好き、お祭りが好き、花火が好き
自分でも意味が分からない。
ドMなのかもしれない。

そんな意味の分からない感情になる夏が始まる今日にワクワクしていた。
なにか高揚した気分。
何でも出来そうな気がする。
心がザワザワする。

『8月の駅』を聴いていた。
今日も嫌な仕事が始まる。
朝一で大事な商談がある。
気合いを入れないといけない日。
お腹がザワザワする。

気付いたらトイレに籠っていた。
世紀の大腹痛に襲われていた。

この電車に乗らないと遅刻確定。
そんな時間は刻一刻と迫る。

あと3分。
あと2分。
あと1分。

商談には大遅刻した。
僕のせいで客先を怒らせた。
莫大な額の損害を生んだ。

そんな大事な仕事自分に任せんなよ!普段の感じみてたらそんぐらい分かんだろ!!お前バカかよ!!!!!!!
心の中でブチ切れていたが、考えれば考えるほど自分のことが嫌いになる。

上司にメールを送る。

「すみません。自転車がパンクしてしまったので遅刻します。」

体調不良と言えばいいのに中学生がトイレに行くのを恥ずかしがるスピリットを根強く持っている僕は謎の嘘をついた。

すぐに電話がかかってきた。
当然怒られた。
自己管理の無さ。社会人としての自覚。人間性。
ベロが痺れるぐらい怒られた。

本当に死ねよ自分。
なんも出来ねえじゃん。
本当に嫌い!!!自分死ねよ!!!!!仕事でミスしまくるわ大事な日に遅刻するわ、まじでなんも出来ねえじゃん!本当にクソ!!!!ふざけんなよ!!!!!
また自分のことが嫌いになった。

商談先に向かう道中、自己嫌悪に陥りまくった。
夏なのに寒い。
全く汗が出ない。
どうやって謝ろう。

自己嫌悪とこれから飛び込む修羅場。
今日は無事に帰れるのだろうか。
目の前が夢みたいにボヤーっとしてくる。
居ないはずの上司、取引先からの罵声が聞こえてくる。
それを打ち消すようにずっと下を向いて歩いていた。

それを切り裂くように
「問題なんてないないないぜ!」
イヤホンからはそんな曲が流れた。

そうだ、問題なんて何も無い。
僕は僕らしくあれば良い。
周りなんか気にしなくて良い。
ダメな僕でも芯に揺るがない何かがあれば良いんだ。

曲が終わる。
現実を見てしまう。


問題なんてあるあるあるぜ。


首が取れるほど頭を下げて謝った。

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