短篇「君を見つけてしまった」2/8
⁑ 2 ⁑
二度目に彼女を見かけたのはバスの中からだった。
大学から駅ゆきに乗って外を眺めていると、自転車をこいでいる彼女が目に飛び込んできた。ハッとした。やっぱり肩を怒らせて男まさりにこいでいる。
学生課のカウンターに身を乗り出していた姿がよみがえる。
記憶をなぞっているうちに脇道にでも入ったのだろう彼女の姿は消えていた。
自転車に乗っていたのだからこの近所に住んでいるのかもしれない。
地方から出てきた僕は学校からちょっと離れた家賃の手ごろなアパートに住んでいる。彼女は地元の人なのかもしれない、と素性が分かったような気がして妙にうれしかった。
三度目にあったのは意外な場所で、会ったというのは今度は話すことができたからなのだけれど、サークル仲間と飲みに行ったパブだった。
「ご注文は?」
見上げると、黄色のセーターに店のエプロンをした彼女が立っていた。
「ビールを3つ」
僕らが声をそろえて言うと、ビールですね、と聞き返して伝票に熱心に書き込んでいた。
その後「いくつですか?」と真顔で聞いてきたので、僕らは笑った。
「3人だからさ」と友人の1人が答えたが、「それでいくつですっけ」と質問してきたので、僕らは再び笑った。
「今日初めてバイトしてるの?」
僕はこれまで彼女にいろいろな質問をする想像をしてきたけれど、最初に聞いたのがこれだった。
「初めてどころか、これが最後です」
彼女は困っているようにも、怒っているようにも見えた。
「今日から始めて今日でやめるってこと?」
「友人が、今日はレポート提出でどうしても入れないからって、マスターにお願いしたらしいんだけど、代わりを見つけて来いって言われたの。それでいろんな子に声をかけたんだけれど断られて、ついに私が頼まれたってわけ。断るに断れなくって、それでここにいるの。でも、本当の理由はレポートなんかじゃなくってボーイフレンドへのバースデープレゼントを編むため。もう間に合いそうもないって中途半端なセーターを抱きしめて泣いてた。そういうわけなの。で、ビールはいくつ?」
僕らは指を3本たてながら笑った。もちろん友人2人はあきれていてけれど、僕は心から笑えた。
僕はね、この時はっきりと分かったんだ。君を学生課のカウンターで見つけてしまったんだ、って。だから、友人たちとは一緒に帰らなかった。先輩と待ち合わせしているからと言ってカウンター席に残った。
つづく
⁂あと6話、クリスマスイブ🎄に完結(予定)します。
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