見出し画像

いつでも麻雀日和10話~幕郎、雀荘デビューする。その4~

←9話

『たのも~う!』

『おい、白川!まさかあいつか?』
「はい、俺の親友、蒼理幕郎です。」
『はぁ…勘弁してくれよ…。いらっしゃいませ~!』

もたもたしている間に幕郎が空いている席に勝手に座っちまったな。

『誰でもいいからかかってこ~い!』

すっげーこと叫んでるぅ!西山さん周りのお客さんの反応撮してくれ~。ま、無理か。もうひとり用意しておくべきだったな…

『お客様、まずはあちらのカウンターにお掛けになってください。』
『あっ、はーい。』

謎の素直!

『当店は初めてですか?』
はい、最強ですが、初めてです。
『承知しました。ではまずこのシートに太枠の中だけ記入してください。』
『分かりました。』

フリー雀荘へ行くと、新規は必ずアンケート的なシートを書かされる。その項目は大体決まっていて
・住所、氏名、年齢
・フリー経験の有無
・麻雀を打つ頻度
・符計算できるか?
・このお店を何で知ったか(来店経路)

これらの項目にはちゃんと意味がある。氏名などの個人情報は全員がお店に身分を明かしています、怪しい人はいません安心してご遊戯くださいというメッセージである。逆に言うと身分を明かせない人はお断りですってことだ。チェーン店だと身分証明書も確認される。しかし場末雀荘だと名前だけでオッケーだったりする。前にフラッと入った雀荘はまさにそれ。名前だけ聞かれてルール説明されたから一瞬でヤバそうだと感じた。初めての雀荘に行った時、個人情報を聞かれなかったら危ない人がいる雀荘かもしれない。

次に麻雀の情報。これは立ち番(メンバーで麻雀を打っていない人)がその人に割り当てるリソースが変わってくる。例えばフリーの経験が無くて麻雀を打つ頻度が少ない人であれば立番はサポートのためにその卓を気にしながら業務に当たる。その新規がアガったら卓へ見に行き、点数が合っているか、点棒移動が正しく行われているか、マナー違反をしていないかなどを確認する。符計算ができない人だとちょっと大変。逆に、麻雀もフリーも慣れている人に対しては気にせず他の卓へ気を回す。

店の来店経路。これも結構重要である。雀荘はいくつか広告を出しており、その効果を確かめる必要がある。あまり効果のない広告は無くして経費を削減しなければならない。その広告はだいたい麻雀王国と雀サクッである。店の詳細情報を載せて編集できるようになるのが最も安いプランで年間1万円ぐらい。結構安い。それを検索の上位に持ってくるようにしたり、バナーをつけたりすると年間10~30万かかる。高い。しかし最近ではGoogleとかいう最強の広告プラットフォームが現れた。みんなが使うGoogleMap。ここに情報を無料で掲載することができる。100人中120人は知っているであろうあのGoogleに、無料で。麻雀王国や雀サクッは、店舗検索→店舗情報→店舗アクセスで店の場所がわかる。その店の場所を示すMAPがGoogleMapだ。しかし、そのGoogleMapで検索すると店の場所と情報がすぐに分かるようになっている。検索の手間が少ないし上に結局GoogleMapで位置を見るんだからこっちでいいよねって話。麻雀王国と雀サクッ、ヤバない?

『おい!白川!』
「はい。」
『何だあいつ…』
「ダメですかね…このまま大声出されても迷惑かけそうですし…」
『めっちゃ面白そうじゃねぇか!』
「ですよね!」
『すごく勘違いしてるのが最高。宮里さんとやらせるとかなり面白そうだ!あ、宮里さんってあの厄介なお客さんね。』
「分かってくれましたか!あ、幕郎が書いているシート撮せますか?」
『まだ書いてるな。撮せそう。』

【氏名】
蒼理幕郎
【年齢】
19歳
【住所】
愛知県〇〇市××町
【フリー麻雀の経験はありますか?】
無いが麻雀は最強
【麻雀を打つ頻度どのくらいですか?】
週に9回
【符計算はできますか?】
50符までしかできませぬ
【このお店は何で知りましたか?】
友達の紹…

麻雀は最強て聞いてねぇ~。さすが幕郎だ。週に9回って盛り過ぎだろう。それでいて符計算はできないって正直に答えるあたり面白すぎる。できませぬってなんだよ。できませぬって。武者か。

『書き終わりました!』
『はい、ありがとうございます。蒼理さんですね。私、スタッフの西山と申します。よろしくおねがいします。』
『よろしくおねがいします!』
『それではルール説明の前にマナーのお願いをしております。こちらをご覧ください。』
『あ、そこにも書いたんですけど符計算が50符までしかできないんですけど大丈夫ですかね?』
『50符までできれば充分です。他のお客さんには符計算ができない方もいらっしゃいますよ。』
『そうなんですか。』
『はい。それではマナーを見ていきましょう。』
『はい。』

さすが西山さん。柔らかい雰囲気で幕郎の奇行を抑えている。
マナー説明。店側にとってはルール説明より重要である。フリー雀荘は知らない人同士が対局する。無意識に失礼な行為をしてしまったり、知らずにやってはいけないことをしてしまうと相手のお客さんが帰ってしまったり、最悪喧嘩になる。店側はトラブルが無いように円滑なゲーム進行をしてほしいのだ。フリー麻雀のマナーの内容は店によって変わっていたりするが大体はこんな感じである。

・ツモった牌は打牌してから手牌の中に入れる。
・裏ドラはアガった人がめくる。
・点棒は相手の近くへ置いて渡す。
・点棒は手渡ししない。
・嶺上牌は下ろす。
・ドラ表示牌、嶺上牌下ろしは山の前の人が行う。
・親は全員の配牌が完了した後に第一打を行う。
・理牌、倒牌以外、利き手だけ使う。
・過剰に河に触らない。
・伏せ牌をしない。
・手牌は両手で倒す。
・行為の前に発声をする。
・アガった時は理牌してから倒す。
・発声は明確に行う。
・牌を場外に出さない。 
・強打をしない。
・アガリでない場合手牌を倒さない。
・アガリ、放銃の講釈をしない。
・局が終わった後の山めくり、裏ドラ見をしない。
・局の途中、手牌に関する発言をしない。
・他人のアガリ、放銃、マナーを批難しない。

ここらへんをおさえておけばフリー麻雀で問題なく遊べる。いちばん大事なのは最後の
他人のアガリ、放銃、マナーを批判しない。
である。たとえ自分が正しくても客が客に注意すると最悪喧嘩になる。気になることがあったらお店の人にこっそり言う。これがトラブルにならないコツだ。お、西山さんのマナー説明が終わったところだな。

『以上マナーをお願いしております。』

『了解しましたぁ!』

でかいでかい。声がでかい。どうした急に。落ち着け。情緒不安定かよ。

『それではルール説明に入りますね。』
『はい。』

ルール説明。と言ってもどこの雀荘もほとんど同じである。天鳳と大体一緒のアリアリルール。クイタンありアトヅケあり。しかし、重要なところは抑えておきたい。
まずはテンパイ連荘アガリ連荘か。天鳳では親でテンパイをしていたら親権は続行する。これがテンパイ連荘である。そしてアガらないと親権が流れてしまうというのがアガリ連荘だ。MJモバイルはアガリ連荘だったような気がする。これはお店側が場代を効率よく回収するための工夫で、何度も流局して局が回らないと1半荘の時間がとんでもなく長くなり、1時間あたりの収入が少なくなってしまうのだ。そこで連荘を少なくするためにアガリ連荘というルールがある。低レートのお店の殆どがアガリ連荘を採用している。俺はこのアガリ連荘が苦手でだ。親のリーチ判断がちょっと難しい。例えばカンチャンの3色のみをテンパっていたとする。

画像1

ダマテンだと3900。これだとちょっと物足りない。しかしリーチして7700にすると流局率が高くなってしまい親権が流れやすくなってしまう。ま、結局リーチするんだけど。
次は祝儀比率だ。フリー雀荘では半荘終了時の点数の他に、祝儀と呼ばれるやり取りが存在する。赤を持ってアガったり、一発、裏ドラに1枚つく。

画像2

例えばこれを一発でアガって裏が1枚乗ったとする。すると赤5mで1枚、一発で1枚、裏ドラで1枚。合計3枚の祝儀がもらえるのだ。ロンだとその人から、そしてツモるとその3枚を全員からもらえる。
この1枚が点数に換算すると何点分なのかが重要である。今、幕郎がいる雀荘はテンゴである。つまりは1000点50円。そして祝儀が200円だ。1枚につき4000点分の価値となる。上のアガり3枚だと12000点分。ツモると36000点分の収入だ。でかい。祝儀が100円だとさっきの半分だ。この祝儀価値の違い主に副露判断に影響する。

画像3

ここに4mが打たれたとする。すると3900の祝儀2枚をテンパイする。祝儀が200円の場合、ロンアガリで11900点分のテンパイだ。しかし100円だと7900点分である。それならスルーしてリーチの跳満を狙ったほうがいい。というように副露判断に大きく影響する。リーチ判断にも多少は影響するが。新宿のお店だと1枚1000円とかあるらしい。恐ろしや恐ろしや。
この連荘条件と祝儀比率の2点を見ておけば大体オーケーだ。

『以上が当店のルールとなっております。何か質問はありますか?』

『ありません!最強ですから!』

だから最強は聞いてないって。声もでかい。きっと舐められないようにアピールしてるんだな。余計舐められるっての。面白いからいいけど。

『それでは早速ご案内です!あちらの卓へお願いします。』
『押忍!』

柔道場じゃねぇんだわ。それにしてもすげえ。西山さんのルール説明が終わったと同時に卓も半荘が終わった。うまく調整してたんだな。18歳からメンバーやってるだけあるわ。優秀なメンバーはなるべく待ち時間を無くすのがうまい。雀荘が初めての人は待っている間に不安になり帰ってしまうこともある。西山さんはそういう間をうまくコントロールできる。俺には無理。

『こちらご新規の蒼理さんです。こちら宮里さんです。スタッフの井上です。同じくスタッフの田中です。よろしくおねがいしまーす!』

『おねがいしまあああす!!』

『…っるせーな』

お?早速厄介なお客さん、宮里さんが今うるせーなって言ったぞ!感じ悪っ!こりゃ同卓NG多いわけだ。いけ!自称世界一雀士幕郎!お前の伝説を見せてくれ!

つづく

→11話


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?