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いつでも麻雀日和9話~幕郎、雀荘デビューする3~

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秋の昼下がり。空は晴れ渡っている。しかし通り抜ける風の肌寒さは夏がもう完全に終わったということを感じさせる。もうすぐ訪れる冬の予感。ああ、もうすぐ期末テストじゃん。ポエムを考えていたら何故か期末テストを思い出したぞ。カンペ作らなきゃ。
俺の名前は蒼理幕郎。世界一麻雀が強い男だ。今俺は戦場に向かっている途中だ。バスを降り、駅前の通りを歩いている。後10分もすれば俺は戦いの真っ只中にいるだろう。緊張するぜ…もしかしたら今日、命を落とすかもしれない。なぜだか体が震えた。これは武者震いだ。心が奮い立ち、体が震えているのだ。嘘。ただのスマホのバイブである。シロからラインが来ている。発音良く言うとルァイン。

 『もう着いたか?』

なんだ。心配性だな。俺を誰だと思っている。世界一の雀士幕郎様だぞ。

          『後10分。』
 『がんば』
          『うーい』

スマホをポケットにしまい、歩き出す。ああ、足が重い。これは武者足重だ。戦を前に心が奮い立ち、足が重くなっているのだ。おっと、コンビニがあるじゃねぇか。ちょっと寄っていくか。飲み物を買っていこう。それとトイレにも行っておかなきゃ。もしかしたらトイレに行っている間にイカサマを仕掛けられるかもしれないからな。決して緊張してトイレに行きたくなったわけではない。そう、これは武者トイレだ。心が奮い立ち、トイレに行きたくなっているのだ。
トイレを済ませ飲み物を買う。買うものはリポDだ。ファイト一発のアレ。気合を入れたい時に飲むものといえばコレである。ところで、この手の飲料水には派閥がある。
まずはレッドブル派だ。徹夜をする時に飲むやつが多い。麻雀、ゲーム、レポート、テスト勉強など長時間のタスクをやる時にはコレを飲んでおけば眠くならずに済むと思っている。効果はよくわからないが、まぁ飲んでおけば間違いはないだろう。7割がキャッチコピーの”翼をさずける”を本気で信じている。
次はモンスターエナジー派だ。どういうときとか限らずお茶のように常にコレを飲んでいる。ゲロ甘炭酸に脳をやられ、のどが渇いたらモンエナ。パブロフの犬。なんなら夢の中でも飲んでいる。モンエナ派同士の絆は固く、レッドブルを飲むやつを敵視しているやつが多い。モンエナ派がレッドブルを飲むを殺される。355ml缶を飲みきったら最後、モンエナなしでは生きていけなくなる。準麻薬と言っていい。
そしてリポD。疲れたから飲む、これから重労働だから飲む、眠気覚ましに飲むなどそんなネガティブな理由でコレを口にするやつはただの一人としていない。リポDは気合を入れるために飲む。ただそれだけなのだ。そしてその効果は計り知れない。気合がやべえからな。まずキャップを開けるのに気合がいる。邪な思いでリポDを飲もうとするやつにはキャップは開けられない。気合を入れるという意思がないやつはだいたい弾かれるのだ。飲む前から選別は始まっている。要するに気合だ。
他のものを飲むやつは興味本位で飲んでいるだけである。3派閥のどれかに必ず所属している。

コンビニを出てリポDのキャップを開ける。堅い。ぐっと力を入れるとリポDが俺を認めてくれたのかキャップが回った。一気に飲み干す。リーチ一発!ではなくファイト一発!来たぜ。気合がよぅ。さあ、戦場はもうすぐだ。行くぜ。コンビニを後にし歩き出す。
「ここを左か。」
スマホのマップを見ながら路地に入る。大きな通りから外れて人通りが少ない。ただ、都会の喧騒が周りのビルに反射して響いている。さっきまであんなに人がいたのにこの辺だけ全然いない。何かの結界か?
着いた。そこは5階建ての古いビル。入口には姿見ぐらいの看板がある。ビルは古いのに看板はやたらと新しい。すごい違和感。ドラゴンボールの中にラブライブのことりちゃんがいるみたいだ。

【リーチ麻雀アルタイル】
フリー麻雀・貸卓
初心者歓迎

と書いてある。看板の周りには電球がついていてピカピカと自己主張している。なるほど。ここが戦場か。今から焼け野原にしてやるぜ。キラキラピカピカしている看板とは逆にがビルの中は薄暗い。キレイにはしてあるが、それっぽい雰囲気だ。そのギャップが中に入る足を重くさせる。ここにも結界が張ってあるのか。おそらくこの空気に耐えられず、何人もの人が引き返しただろう。まあいい、入るか。
狭い入り口からビルの中へ。4階が雀荘だ。細くてくらい廊下を進むと固く閉ざされた鉄の扉があった。古いエレベーターだ。エレベーターで上るのか。何かあった時のために階段の位置も確認しておこう。もし俺が強すぎて相手が怒ったら真っ先に逃げられるようにな。
階段はここか・・・よし。エレベーターのボタンを押す。扉の向こうで音がして、5階にあったエレベーターが俺を迎えに来ようとしている。なぜか降りてくるまでの時間が長く感じる…これは武者・・・なんだ?とにかく武者のなにかだろう。お、やっと来たか。

ゴゴゴゴゴ

エレベーターの開く音が古さを感じさせる。ゆっくりと中に入り、4階のボタンを押す。閉めるボタンは押さなかった。自然に閉まるのを待つ。

ゴゴゴゴゴ
ウィィィィーン

エレベーターが上に引っ張られている。今が何階か表示するものはない。おそらくランプが切れている。整備しろ。そういうのなきゃだめなんじゃないの?

ゴゴゴゴゴ

扉が開いた。すると目の前に

【リーチ麻雀アルタイル】
    OPEN

と書かれたボードが掛かった扉が現れた。これを開けると戦場だ。さて、どうやって入ったものか。あんまりおどおどして入ると舐められるからな。ここは堂々と行こう。俺は蒼理幕郎、世界一麻雀が強い男だ。

いざ!!!!!

*********

「もしもし、西山さん!後10分で着くみたいです!」
『OK。じゃあカメラ通話繋いでおくか。』
「お願いします!」
『ほい、見えるか?』
「バッチリです!結構お店賑わってますね。」
『ああ、最近ライバル店がシバかれて営業停止になってな。』
「なるほどそうだったんですか。」
『でだ、ルール説明をして対局開始が20分後になるとするとあの卓に案内することになりそうだ。』
「それがどうしたんですか?」
『ちょっと厄介というか、マナ悪というか。学生や初心者相手だとめっちゃマウント取ってくる人がいるんだよ。ライバル店の常連なんだが、営業停止でこっちに通いだしてるんだ。学生たちからめっちゃ嫌われてて、対局NGの人が多くて困ってるんだ。』
「ああ、それならぜひそこに案内してください。絶対に面しr…いい経験になりますから。」
『今面白っていった!問題を起こされたら困るぞ…』
「大丈夫ですって。幕郎はそんなんじゃないので。でも出禁にはしないんですか?」
『それが、一度席につくと20半荘はやる太客でな…それが週3とかなんだよ。オーナーは出禁にせずうまく回せとこっちに丸投げでな…』
「大変ですねぇ。」
『もうハゲそうだよ…ホント…』

ーカランコロンー

『たのも~う!』

「ぶはー!!幕郎だー!予想を遥かに上回るアプローチ!」

続く

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