(小説)八月の少年(六)
(六)ノイズ
突然激しい爆発音が聴こえた。列車が大きく揺れた。何だ?と思う間もなく辺りがまっ暗になった。どうしたのだ、またトンネルに入ったのか?
「おーい車掌はいないのか?」
大声で叫んだが答えはなかった。ただ爆発音だけが絶えず暗闇の中に響いている。やがて爆発音に混じって何かノイズのようなものが聴こえてきた。何だこれは?耳が痛くなった。しばらくするとノイズに混じって別の何かが聴こえて来た。今度は何だ?
『ド』
耳を澄ませた。
ん?
『ド』
どうやらそれは人の声だった。車掌か?いや、車掌の声ではない。何と言っているのだ?声は叫んだ。
『ド』
何だ、聴こえないぞ?声は繰り返した。
『ドイツ軍がポーランドへ侵攻』
何?声ははっきりと聴こえた。
『フランスとイギリスがドイツに宣戦布告』
何!
何だと。これは世界大戦の始まりを告げる、けれど声は突然途切れた。声はスーッとノイズに吸い込まれやがてノイズも消えた。わたしの耳には沈黙だけが残された。まるで誰かが気紛れにラジオのスイッチを入れ、また気紛れにそのスイッチを切ってしまったかのように。
ノイズが消えた後再び爆発音が甦った。しかしこの爆発音は何だ?
まさか、戦争?
ここでも戦争が始まったのか?今ここで戦争をしているのか?ここはもう戦場なのか?
「おおーい、誰かいないのか?車掌ーーー!」
パニックの中でわたしは叫んだ。大きな爆発音がまた列車を揺らした。
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