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(詩)風鈴少年

夏の夕暮れ時
風が吹いてくると
どこからか
風鈴少年がやってくる

わたしがまだ
少年だった頃

わたしの夢や
好きだった少女の笑い声
わたしの泣きべそ顔を
知っている

うつむいた
わたしのほっぺた
のぞき込むようにして
吹きすぎていった風

夕立の後のしずけさ
蚊取り線香のけむり
夏祭りのざわめき
夜市のランプの
波にまぎれて見失った
浴衣姿のあの娘の背中

気が付くといつも
風鈴の音がしていた

けれどそれは
風が吹いていただけ
ただ風が吹いていたから、
なのだと気付くには

まだわたしはあまりに
子どもだった


夏の夕暮れ時

やさしい風が吹いてくる頃
どこからかやってきた
風鈴少年

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