エデンの東

父の飲む茶に毒をもったと
病苦にのたうつ父の飲む茶に

日に日にやせ
介抱に疲れ果てゆく
母姉の姿にたえられず
とうとう父の飲む茶に

それに気付いた母親は
けれど黙して何も語らず
さとったことさえ
しらばっくれて
何がまことのことかも
わからない
わたしはもう
頭の狂った
あほうになってしまったと

何もとうとう語らぬままに
すべてを
闇の道連れにするごとく
この世を去って

姉はその時ただ黙り
ぼくの目をまっすぐに見詰め
笑うことも泣くことも
非難そしることもせず
ただじっとぼくの
このけがれた目を

そしてぼくといえば
ただ地獄におつることだけが
救いであり望みであった
この数十年の歳月の永さ短さ
またその重さと軽さ

それでもぼくたちは
家族と呼ばれた
ほんの数十年前
たしかにひとつに寄り添いあう
仲のよい家族だった

それでもあなたは
ぼくの姉であり
あなたは母であり
あなたはぼくの父だった

けれどもうぼくは
あなたの弟ではなく
あなたのまた
あなたの息子でもなく

ただひとりの、罪人になった

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眠れない夜に

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