(詩)土曜日のデート

土曜日の
夏の前の午後の
日差しに包まれて

見知らぬ風が
吹いてきて
いくつもの花や
草の葉が揺れて

としつきが
いったりきたり
雨がおち雪がふって

ぼくがまだ
風だったころ
まだ
いちりんの小さな花の
はなびらだったきみを
見ていた
きみだとも知らずに
まだ恋という
感情さえ知らずに

土曜日の
夏の前の午後の
日差しに包まれて

まだぼくが
のらねこの背中にもたれて
のらねこといっしょに
お昼寝していた頃

それからある日
ぼくはふと目をさまし
のらねこは年老いて

土曜日の
夏の前の午後の
日差しに導かれぼくは

ひとりの
男の子の中に生まれた
その
かなしみのうつわの中に
生まれ落ちた
ひとりぼっち、ひざをかかえ

とほうにくれたぼくの耳に
けれどその時
仲のよかったのらねこが
ささやいたんだ
のらねこの
ささやく声がきこえてきた

だいじょうぶだよ

この世界のどこかで
花の
はなびらだったきみが
ひとりの女の子の中に
生まれようと
しているから、と

だからぼくは
ひとりぼっちじゃないと

土曜日の
夏の前の午後の
日差しに包まれて

そしてぼくたちは
ある夏の前の

土曜日の
午後の日差しの中で
出会った

ぼくが
風だったことも知らず
きみが
はなびらだったことも
しらないで

ただきみが
ぼくの胸の中で泣いた時

なんだか
きみの涙のにおいが
なつかしかった

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