マガジンのカバー画像

(詩集)きみの夢に届くまで

195
詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
運営しているクリエイター

2022年11月の記事一覧

(詩)柿の木だった頃

いつも山が見えた 田んぼが見えた 畑が見えた 小さな家が見えた 男の子がいて 女の子がいた いつも 風が吹いていた いつか 男の子も女の子も 大人になって 村を出ていったり 結婚したり そしてまた 別の男の子がやってきて 別の女の子がやってきた 人も ぼくから見れば 風と同じなのさ 人も、ただの風 ぼくが柿の木だった頃 少女の手に 柿の実を落としたら 少女は 柿の実にキスをした 柿の木のくせに ぼくはドキドキした すぐに年老いてゆく一生も たまには悪くないな、と

スレーブ人形

少女たちは 今日も歌い踊る 色鮮やかな衣装をまとい 眩しいスポットライトに 曝されながら 派手なメイクに セクシーな表情 とろけそうな笑顔がたまんない 時には華やかに 恋のスキャンダル なんてのも、ありかもね そして気の利いた 大人のコメントで煙に巻く だけどみんな つくられたにせもの 少年たちは今日も せっせせっせと労働に励む 汗水垂らし身を粉にして 朝からラッシュでもみくちゃ 昼はカップラーメン 夜は夜でサービス残業 今日も一日ストレス漬けってか それもこれも

(詩)ラストダンス

きみと一晩だけ ダンスを踊ったことがある ダンスといっても きみの体調が あんまり良くなくて ふたりとも 少しも動かなかったから 正確にはダンスとは 呼べないかもしれないけれど しずかにただ じっと きみがぼくのうでに つかまっていたんだ そして一晩中 星空の砂浜に 突っ立っていた 時々ぼくが歌ったり きみが笑ったり それからふたりとも 黙っている時は しおざいがひびいていた 夜が明け 血相を変えて一晩中 きみを捜し回っていた 連中がぼくたちの 海岸にやってきて み

深夜放送

そのラジオ局は ラストバラードが終わり DJがおやすみを告げたら あとは夜明けまで 波の音を流した 深夜放送に 夢中の不良少年は 朝までのわずかな時間 ラジオから流れてくる しおざいの中で 眠りに落ちた 夢の中では 決まっていつも ひとりの少女が現われ けれどその顔は ぼやけていて その代わり少女はいつも 海のにおいがしていた そうやって育ったせいか 今もラジオをつけると しおざいが 聴こえて来る気がする 夜明け前に目を覚ますと どうしてもつい 波の音をさがしてし