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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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2022年6月の記事一覧

雨花

花が雨にぬれている ひっそりと何もいわずに ぬれている とうめいなつめたい まっすぐに 空からおちてきた 雨にうたれながら 何もいわずじっと黙って 傘も差さずに 傘を差すことも知らないで くしゃみもせずに しっとりと恋するように いとしい人を想うように 今いちりんの花が 雨にぬれています おしえてくれよ ここが天国じゃないわけを ここが地獄でもないあかしを おしえて下さい おかした罪をつぐなうすべを 今いちりんの花が 雨に打たれながら 雨にぬれたわたしを じ

星景色

いつも見上げていたはずの おやじとおふくろの背丈を いつのまにか追い越して その分世の中のことも 見渡せるようなつもりになって あんなに大きくて 眩しかったはずの世界も 今はただ薄汚れ せこせこして醜い 人間たちの集団に過ぎない、なんて 悟ったような ふうをしてみてもむなしい 今はただまっ直ぐに見上げる 灰色の夜空のむこうの星の瞬き それさえも いつか見下ろしたり 見渡したりする時はあるだろうか 例えば この肉体を脱ぎ捨てる時 砂漠のような宇宙のまん中で ただひとりぼっ

オキナワの雨

その新宿の高層ビルの一群の 栄華を誇る夜の瞬きが されど妙に潮っ辛いのは 遠い海辺から打ち寄せる あの子の涙で 出来ているからですか 首都圏に舞い散る 放射線の華びらと 携帯基地局より 発せられる電磁波とに 今宵も奴隷否 労働者たちが 被曝され続け なければならないのは 遠い海の街で 今も繰り返される あの子の悲しみへの 無知なる故ですか すべては計略否計画である すべては委員会の 否日米政府間に於ける合意である よって市民たちの抵抗とは すべて無駄なる足掻きである

明日夜明け前に

明日夜明け前に ふと目を覚ました おまえの枕もとに しずかな風が吹いていたら それはついさっきまで そこにぼくがいて じっと黙ってしばらく いとしいおまえの寝顔をながめ それから 目を覚まそうとする おまえに気付いて あわてて立ち去った ぼくの残した 余韻のかけらだと思ってくれ 今日もぼくは軍に抵抗を続ける 少数民族の村にゆき 彼らの家に火を放ち 泣き叫ぶ子供たち 逃げ遅れた老人たちの姿を見た 或る家のすみに それまで子供を抱いて 幸福そうに眠っていた 若い母親

草のバイオリン

草の調べ、草の演奏 微妙に震えかすかに泣いて 時にはピーンと張りつめて とがった鋭い草の葉は 吹きすぎる風さえ切ってゆく 昔切った小指の傷を思い出す 微風、強風 嵐、竜巻 南風、北風 海風、砂まじりの風 雨まじりの風 タイフーン、ハリケーン まだ止まらない 草の調べ、夢の調べ 一面の空と雲 長いふたつの耳を立て 一心に聴き入る影 いっぴき 草原のうさぎ かじりかけのにんじん 地面にほうり 「これは  ドボルザークですな」 悦に浸り恍惚に我を忘れ 目を閉じて

夜が明ける前に

なんで人は 幸せになれないんだろ かみさまは答える 罪があるから 罪をつぐなうため それ相応の苦しみを 受けなければならない その試練を乗り越えない限り 幸福にはなれないのです なんで人は 幸せになれないんだろ 仏さまは答える 迷いがあるからじゃ 生まれてから 去ってゆくまでの間 人間は何年も何年も 同じ場所を いったり来たりしているだけ その迷いからさめない限り 永遠には辿り着けんのじゃ なんで人は 幸せになれないんだろ なんで人は自分より 不幸せな人を見ると

(詩)病名

りゅうまち はっけつ あるつはいま まらりや せきり こうげん これら あくせいりんぱしゅ ぱーきんそん ましゃどじょぜふ のうこうそく しょうにがん えいちあいぶい みなまた どうして病気にも 名前があるのだろう どうして こういう名前にしたんだろう どうして人は 病気に名前を 付けたがるのだろう いかにも重苦しく 響くことばを選んで 少しは楽になるためか 少しは気が楽になるからか けれど たとえば、ぎんが たとえば、にじ たとえば、やすらぎ たとえば、きぼう

ぼくたちの夢は死なない

たとえば歌が好きなら 歌うことが好きなら 歌が夢なら 歌うことがきみの夢ならば たとえそこが 何万人の観衆のいるステージでも そこがたとえ 誰もいない寂れた路地の裏側でも 歌は 何処でも歌うことができる 歌なら 同じ歌なのだから その路地裏に 風が吹いていて 雑草が伸びていて きみがそして ひとりぼっちで歌っていて やがてきみを含めた すべての生命が 生き変わり、死に変わり めぐりめぐって ある日 ふと何処からか 誰かの歌う声がして 耳を傾けると なぜだか無性に

海鳴り

あんたの罪を いっしょに背負ってもええよ いつでもここは 海が鳴いているから 仕事帰りの電車の中で 隣に座った 見知らぬ誰かの居眠りした頭が あたいの肩にあたった時 ふとそんなふうにつぶやいた ふとそんなふうに つぶやいてみた あんたの罪をいっしょに背負って あげてもええよ いつでもここは 海が鳴いているから ここは海の鳴く星やから

南荒尾駅で会いましょう

不思議な海が 目の前に広がる その駅で、会いましょう その時は、夏がいい 日中はほとんど 人が訪れることもない その駅は 都会の雑踏の中で 人生のほとんど 全部を費やし 疲れ果てたぼくたちに やさしい記憶を くれることでしょう 干潟と呼ばれる もしかしたら 海の中をどこまでも どこまでも 丸で十戒のモーゼのように 海の果てまでも 歩いてゆけそうな そんな海辺で ひとりぼっちいつまでも あなたを 待っていたかった あなただけを 待っていたかった 少年から 老人になるま