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社会人落語日本一決定戦観戦記(後編)

「決勝戦の会場へは石橋阪大前駅から歩くべし!!」

「もうずいぶんと歩いたぜ…まだかのう、決勝の会場は」
「だいたいなぜ池田駅とは別の駅で降りて歩かせるんじゃ」
「ん?…な、なんだか向こうが騒がしいぜ…?」
「どうやら着いたようだ」


「な、なんじゃあーー!あの人の群れはーー!」
「ぜ、全席指定なのに、人でごったがえしておるぞーっ!」

「で、でっけええーーっっ!こ、ここで落語をするってのかー!?」
「ぬううっ…これが世に聞く阿全利安峰唹瑠(あぜりあほおる)…!!」



阿全利安峰唹瑠(あぜりあほおる)

古代中国最強と呼ばれた将軍、阿全(あぜん)と利安(りあん)の二人は、互いの雌雄を決するべく峰唹瑠(ほおる)と呼ばれる巨大な渓谷に数十万騎を率いて対峙し、両軍激突してその覇を競ったと伝わる。


生成AIってほんと面白いな

激闘の末、互いに一歩も譲らなかった阿全将軍と利安将軍は、その身を虎の姿に変え、空高く舞い上がり、今も永遠に天上で闘い続けているという。なお、大阪府池田市に存在する「アゼリアホール」とは、この勇壮な伝説から名付けられたことは言うまでもない。
民明書房刊『唖然・呆然・激闘の世界史』より

そんな一部の中年にしかわからないネタはどうでもいいですが。

しかし本当に大きいんですよねアゼリアホール。ここで落語をする人は舞台の巨大な空間を一人で埋めて1000人収容の客席を湧かせるのは大変だと思います。ちなみに撮影禁止なので口演中の画像はありません。公式の動画公開を待ちましょう。

さて、そんな決勝会場に進めるファイナリストは僅かに10人。今年から出番順が公開抽選になったようで、皆さん壇上で抽選結果に一喜一憂。審査員の先生方のご挨拶もいちいち面白く、和やかな雰囲気で決勝に突入です。

※ここから先、ネタバレ有りなのでご注意。

①六ツ家千艘さん「三年目」
実年齢よりお若くフレッシュに見えます。非常に可愛らしさを感じる幽霊の演じ方で、怪談話の品と滑稽噺の妙が両立していました。

②猪名川亭風鈴さん「応挙の幽霊」
幽霊噺が二つ連続は抽選ならでは(笑)掛け軸から出てきた後の噺の空気の変化がとても良かったと思います。

③ぽんぽん亭遊月さん「社会人ピアノ日本一決定戦」
最初のくすぐりで爆笑を取ったのですが、それで噺が尻すぼみにならないのが凄い。実体験を活かした私小説的なメタ落語。とても新鮮でした。

④当利家源内さん「外為裁き」
今回一番凝っていた創作です。普通、ここまで特定分野で作ると内容が難しくなるのですが、わかりやすいネタと組み合わせて爆笑の連続。圧巻。

⑤無茶志亭肉丸さん「疝気の虫」
「小型爆弾」と自ら称しておられましたが、文字通り濃いキャラクターが10分間炸裂しまくりの爆笑高座でした。それでいて独自演出も巧みです。

⑥二松亭風林火山さん「鮫講釈」
とにかく達者な方ですね…。目玉の講釈部分はもちろん抜群の出来で、会場から拍手が巻き起こっていました。

⑦千里家圓九さん「ふぐ鍋」
聴きやすさではナンバー1だったと思います。オチを知っていても笑えるのはストーリーの中の所作がとことん工夫されている証拠ですね。

⑧団子家みたらしさん「裏皿屋敷」
マクラの一言で爆笑を取っておられました。これはもう改作というより新作ですね。突飛に見えてリアルな女子トーク、凄いです。

⑨夏風亭あっ晴さん「ちりとてちん」
圧倒的にお若い方です。20代の方が決勝に残ってるとそれだけで応援したくなりますね。勿論内容も巧みでした。まとめ方もお上手。

⑩竜宮亭無眠さん「時うどん」
定番の噺がトリになりました。講評で「容姿がうどん屋のおじさんっぽい」と言われて「たしかに!」と頷きました。合う噺選びもまた重要ですね。

以上10人。甲乙つけがてええええ~~~。

ちなみに隣の席の方が「第一回から全部観ている」という社会人落語大会ヘビーユーザーの池田市の方で、「去年の優勝者は飛び抜けていた」と仰っていたのですが、「今年は誰になるか難しい」との感想でございました。

いや、本当に、難しい!皆さん良かったもの。

私の予想としては、「外為裁き」はあまりにも凝った創作だったので、これは入賞するだろうと思っておりました。ただ、優勝は本当に誰になるか予想できず、審査中の時間はドキドキしましたね。

結果はこちら!

優勝・第十五代名人
ぽんぽん亭遊月さん
「社会人ピアノ日本一決定戦」

第二位
無茶志亭肉丸さん
「疝気の虫」

第三位
六ツ家千艘さん
「三年目」

市長賞
当利家源内さん
「外為裁き」

な・る・ほ・ど・ねえ~~。

と、深く感心してしまいました。この順位、一発で何がどう評価されたのか理解できます。市長賞の源内さんは「創作の巧みさ」三位の千艘さんは「古典の切り口の新鮮さ」二位の肉丸さんは「キャラクターの面白さ」そしてなにより優勝の遊月さんは「社会人らしさ」が評価されたのではないでしょうか。私はそう受け取りました。納得の結果です。

審査委員長の桂文枝師匠が「全く揉めずにすんなり順位が決まった」と総評で述べておられましたが、それだけやはり「社会人らしさ」が一番に求められている大会なのだなと、あらためて感じましたね。優勝されたぽんぽん亭遊月さんはまさにその意義を考え抜いたネタをぶつけて栄冠を勝ち取られたと思います。おめでとうございます!

さて、これにて第十五回社会人落語日本一決定戦、全てが終了。私も香川県に帰ります。阪急電車に乗り、梅田を歩き、大阪から乗り換えて新大阪駅へ。さて、お土産に大好きな「柿の葉寿司」でも買って帰るかな…。




あれっ??

なんで俺は柿の葉寿司を買うつもりだったのに「がんこ寿司」に飛び込んでるんだ??しかもなんでビールまで飲んでるんだ??




はい???

どうして「柿の葉寿司の二個入り」という奇跡的に丁度よいお土産をホームの売店で見つけたのに、さらにビール追加で肴にしてるんだ??

多分、楽しかったのでしょう。
飲みながら余韻に浸りたかったのでしょう。

それは祭り後の程よい疲れと似ていました。落語家さんにとって落語はお祭りではなく日常です。けど、我々聴く側にとっては、日常から離れた異空間。アマチュア落語家の方もおそらく同じ。だから社会人落語家が一同に介したこの二日間は夢のようなお祭りの場所、そんな気持ちになりました。


この大会が末永く続きますように。そして必ずまた来ます。

その時は…ちいかわ列車もまた走っててね!