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全世界の医療従事者にエールを送りたい

私の娘は助産師だ。

娘の勤務する病院では、
新型コロナウィルスの感染者を受け入れている。

今、娘の勤務する病院には
新型コロナウイルス感染疑いの妊婦が
運び込まれている。

疑いではあるが、
感染した方と同等に対応しなければならない。

新型コロナウイルスに感染している可能性があると、
たとえ可能性であっても

陣痛が始まったとして
普通の病院では受け入れられない。

そんな行き場を失った妊婦たちが、
次々と送り込まれてくるのだ。

そして、分娩が始まった時には、
妊婦もだが、
新生児をも守らねばならない。

娘の小さい肩に、ふたつの命が重くのしかかる。


先日、夜勤明けの娘に会いに行った。

疲れきった顔をしていた。

まだ20代なのに。

ほんのしばらく前までは
3〜4日に1度はディズニーランドに
夜勤明けでも構わず
一眼を担いで出かけていた
元気な、はつらつとした
娘の面影はそこには無い。


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明日予定入院4件あって、
誘発分娩も2件みなきゃいけなくて
ちょっとだけ休みたい。

夜勤明けの次の休みも
病院に拘束されて
休みがなかったからかもしれないけど
疲労が半端じゃない

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こんなメールをもらって
平気でいられる母親がどこにいるだろうか。

私は娘の家に飛んで行った。

娘には寝るように伝えた。

それでも、気を使ってか、
寝室に行くことなく
ソファに埋もれていた。


綺麗好きな娘の部屋なのに
いつもよりも少し家事が滞っていたようだ。


食事の支度をし、
少しだけど溜まってた洗濯物を洗って干し、
掃除機をかけ、拭き掃除をし。

その間、娘は私に話しかけていた。
まるで心の中のものを
吐き出したくて仕方ないらしく、
ずーっと話し続けていた。

いろんな話をした。

家事のこと、仕事のこと。

家にいる弟や妹たちのこと。


でも、あまりに疲れきってる娘の姿

休ませてあげたいと心から思った。


親であれば
誰しもそう思うだろう。



病院、
休むわけにはいかないよね?


聞いた私が馬鹿だったとは思ったが、

口から出てしまっていた。



無理に決まってるじゃん。

答える娘



体壊したら、元も子もないよ。

ひとりでがんばってても、
その方が良くないんじゃないの?


私が言ったその言葉に

顔を膝につけていた娘が
パッと顔を上げ

真顔でこういったのだ。


1人でがんばってるんじゃないよ。

がんばってない人なんて
ひとりもいないよ

一生懸命生きてない人なんて、
どこにもいないよ。

みんな必死で生きてるんだよ。
どんな人だって、がんばってるんだよ。

だから、行くしかないじゃん。

それが私の仕事なんだから。


それだけ言うと、また、膝に顔を埋めた。


わかってた。

娘が、
それは無理だよ、
休めないよ

そう言うことは、想定の範囲内だった。


でも、

がんばってない人なんて
ひとりもいないよ

一生懸命生きてない人なんて、
どこにもいないよ。

みんな必死で生きてるんだよ。
どんな人だって、がんばってるんだよ。

この言葉には心を射抜かれた。

ああ、娘は

医療人だ。

医療人に育ったんだ。


うれしかった。

私も医療人の端くれだから。


でも、

でも、こんな疲弊した娘の様子から、

メンタル面も心配だし、
免疫力も低下しているんじゃないかと察せられる。

こんな状態で、
無理して勤務させて良いのか。


世界中が困っている。

みんな、外出自粛や、
慣れないリモートワークに
戸惑っている。

仕事ができなくなってしまった人がいる。

新型コロナウィルスと
闘っている人がいる。

新型コロナウィルスのために

命を落とす人もいる。


でも。

こんな状態で、
無理して勤務させて良いのか。

こんな免疫力や抵抗力の落ちた状態で、
勤務させていいものか?


病院で院内感染がおこり、

テレビでも報道されていた。

その中で

「なぜ専門家なのに、うつってしまうんだろうっていう疑問は拭えない」

という発言もあった。


言いたいことはわかる。


私も教員時代には学生にそういっていた。

医療従事者であれば、わかるだろう。

医療のプロなんだから、
感染しないように、
自分の身を守ることも仕事のうち

病気になるようなら、
医療従事者としての自覚が足りない

そう指導してきた。


でも、今は状況が違う。

私の勤務先でも、
マスクがなかなか入ってこない。
枚数制限している。
1日1枚しか使えない。

不潔になったからと言って、安易に交換できないのだ。
防護服も足りていない。

当然、シールドも不足しており、
消毒用エタノールで清拭して使いまわしている。

感染者を受け入れていない
私の勤務先でこのような状況だ。

感染者を受け入れている病院は、
もっとすごいことになっているというのは
察しがつくだろう。

そんな状況で、衛生管理ができると思うのか。

医療従事者の身を守ることができるのか?

そのうえ、娘のように、

想定外の患者増や、スタッフの不足などに
休みの日まで病院に拘束され、

疲れ切っている状態なのに、

それはないだろうと思ってしまう。


間違えないでほしい。

私は、その発言をした人を中傷したいのではない。

現場の状況を知らず、

また、実際に経験したことのない職種の事情なんて、
知る由もない、と思うから。


でも。


娘の命の保証はだれがしてくれるのか?


娘だけではない。


こんなに真摯に医療に向き合っている
医療従事者が

日本にはたくさんいるんだ。

世界中にたくさんいるんだ。


医師や看護師だけじゃない。

助産師、保健師もそうだが、


医療事務、放射線技師、臨床検査技師。

介護福祉士、看護助手。

そして私のような歯科衛生士。


たくさんの「コ・メディカル」と呼ばれる

医療従事者がたくさんいるんだ。


彼らの命の保証は
誰がしてくれるのか?


母親としては、
身体に気を付けてほしいと思う気持ちでいっぱいだが、

それが娘の仕事なのだと

自分に言い聞かせ

また、
同じ医療の立場に立つ者として


ただ、頑張って、と


覚悟して
見送ることしかできない私の気持ちは

まるで戦争に駆り出された息子を案ずる
親の気持ちと似ているのだろうかと思いを巡らせている。



あなたの子どもが、

あなたの夫が、妻が


もし、そういう立場であったとしたら。

もしかして、わかっていただけることがあるのではないかと

そして、また、

あなたが親の立場であれば、

親としての医療従事者の家族の心情を

わかっていただけることがあるのではないかと

このnoteを書いている。


テレビの発言のことばかりではない。

病院に来院される方も、
病院なんだから、それが仕事でしょ

とばかりに
いろんなことを言われる方もいる。


自分の家族だけを守ろうとする人がいる。

宅配業者に除菌スプレーをかけたり、
常識を逸脱した行動をとる人もいる。


実際、私も、勤務先に届いた
郵便物を受け取った際に、スタッフから

「これ、東京からだからヤバいよ」

って渡されたこともあった。

こういう方たちに、
医療に従事する娘が

どんな思いで

どんな状況で

患者を守るために
最前線で勤務しているか知ってほしいと

心から思う。



1人でがんばってるんじゃないよ。

がんばってない人なんて
ひとりもいないよ

一生懸命生きてない人なんて、
どこにもいないよ。

みんな必死で生きてるんだよ。


娘が言ったように、
みんな、がんばっているんだ。
一生懸命生きているんだ。

それをみんなで認めよう。

そして互いに応援しよう。


世界中の医療従事者の皆さん

本当にありがとう。

過酷な現場でがんばってくださっている
みなさんに

私はエールを送りたい。








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