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日常の中に潜むロードムービー、または2駅先の古書店へ歩いて行く話。

古本屋への憧れってないでしょうか。
小さい店内で所狭しと並ぶ古書、愛想の悪い店主、店内の客は自分だけ。
最初は挨拶すらしない店主も何度も通い、本を買い続け次第に打ち解けて、読んだ本の感想やおすすめの本を語り合うような関係へ。憧れる。

お盆にも関わらず、特に予定もなかったので、自宅から片道1時間歩いて古書店に行くことに決めた。

身近な友人といえば、旅行など比較的お金をかけて刺激を得ているようだが、家から数キロ以内でも、予算数百円でもそれらに負けないような体験が得られることを証明するため電車は使わない。

旅の始まり。

横浜白楽の古本屋

目的地は白楽駅近くの古本屋。ネットで市内の古本屋を検索して、いくつかピックアップしたところ、お盆期間でも営業している可能性があるのはその店だけだった。Googleには休業日の表記だったが、三連休最終日ということもあり、営業していると踏んで店へ確認もせずに出かけた。(調べたら電話番号が出てきたが、怖かったのでそのまま家を出た)

滝のように汗をかきなが、目的地に到着した。店は営業していた。一安心。
店の外にも本が並んでいる。雰囲気がある。

店内

入ると思い描いていた以上の理想的な古本屋だった。陳列された書籍は見渡す限りあるが、決して雑に並んでいない。棚ごとにジャンル分けもしっかりとされていて、見やすい。さらに理想的なのは私が入店したにも関わらず、「いらっしゃいませ」的な挨拶はない。店主らしき人物は奥にいて、明らかに私の入店にも気づいているだろうに。読んでいる本から目を離さない。加点プラス10ポイント。

店内の本をパラパラと読んだりして、購入するものにあたりをつけていた。店内の冷房は最低限であったことと、私が片道1時間かけて訪れたこともあり、汗が一向にとまらなかったため、メガネを外し、額の汗を拭った。そこで、メガネを床に落としてしまった。

メガネは割れていなかったが、いつの間にか、洗い物をしていた店主が、近づいてきて、「何か落としましたか?」と聞いてきた。
私は、メガネを落としたことを伝えた。そうすると「大丈夫ですか。」と質問が返ってきたので、本を落としたのだと勘違いさせてしまったのかと思い、咄嗟に、はいすみません、とだけ返した。
大事な本を傷つけていないかの確認なのか、私のことを気にかけてくれたのかは不明。その時は前者な気がした。

30分ほどかけ店内をぐるっと一周したところ、再度店主に話しかけられた。「奥のこっちの棚は見ました?」
店主のいる奥の角にまだ、見ていない棚が3つあったようだ。

そこへ行くと後ろから店主が「お気に召すかはわからないけど」と呟いた。私は「いえいえ」と返し、棚を確認する。

棚は3つファッションと哲学、神話や民俗学といった本が並んでいた。
この店はこのジャンルの本が多い印象だった。特にファッション。
後から知ったが、この奥の棚は店主の趣味が最も入った棚ということだった。

そこでも一通り本を確認したところ一つの本が目にとまる。

「プラトン」

プラトン

古代ギリシャの哲学者プラトン、前からいつか読まなければと思っていたので、手に取ってなんとなく裏表紙を確認した。そこに値段が書いてあるからだ。

「¥700- 目次の数字カキコミ」

カキコミと書いてあったので、目次をみるそこには、以前の本の所有者がボールペンで、目次の順番とは関係なく見出しに数字を書いていた。

「1 ソクラテスの弁明」

哲学を齧ったことがあるのでわかる。プラトンの手記の初期の対話篇だ。
おそらく目次に書かれた数字は、次の所有者へ「この順番で読みなさい」というメッセージなのだ。
別のページを見ると、所々に前所有者のカキコミがたまにごくたまに登場する。

次の所有者、すなわち私への補足だ。

この本に決めた。

古書の購入と退店

一冊の本を手に取り、店主のいるレジへ向かった。
店主に購入したい旨を告げると、「700円です」とつげ、古い紙を出し、本へ巻いた。どうやら、売れない本のページを、購入された本のカバーにしているようだ。加点プラス100ポイント。

カバンの中でもみくちゃになり、カバーが破れてしまった

店主はカバーを巻く手をとめ、表紙を眺めていた。
「プラトンはお好きなんですか」と聞かれたので、「いえ、挑戦してみようかと」とつげる。
店主は目次も確認する。「ゴルキアスも入ってる、いいですね」と。私は「ソクラテスの弁明が読みたくて」というと、「そうですね、まずはそこから」と店主が言った。店主、前の持ち主、私が繋がった、と感じた。
私が「また来ます」とつげると「またお待ちしています」と返してくれた。

最後に

店を後にして、本を読む。
早くまたあの古本屋に行きたい。
でもその前にこの本を読んでしまわねば。

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