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宝塚雪組『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル』レビュー

いろんな意味で涙なしに観られない作品だった。
レビューはストーリーに重点を置いて書くことにしてるけど、
今回は少し人にも触れていきたい。
 
今作の主人公はコナン・ドイル(彩風咲奈さん)。
一言でいえばコナン・ドイルの生涯を幻想的かつコミカルに描いた喜劇だ。
以下、ストーリーの詳細。
 
ドイルは医者でボクサーで小説家のたまご。
面白い小説を書いて小説家として生きていきたいようだ。
ところが、いくら小説を書いても出版社は封筒も切らずに突き返してくる。
「ドイル」の名前が書いてあるだけで読んでもらえない…。
いや、ひとつだけ封が切られている!?と思えば、読んだのは配達員。
ドイルは配達員に感想を聞くが「面白くない」とのこと。
そんなドイルの夢を応援し、
支えてくれるのが妻のルイーズ(夢白あやさん)だ。
 
ある日、ドイルは魔法のペンを手に入れて、
自分が書いた小説の主人公シャーロックホームズ(朝美絢さん)に現実世界で出会う。
シャーロックホームズに「僕を書いて」と言われたドイルはその通りにした。
ドイルの小説がとても面白くてルイーズはびっくり!
ルイーズはドイルの小説を「ストランド・マガジン」編集部に持ち込む。
編集長のハーバート(和希そらさん)はドイルの小説を高く評価した。
 
ドイルは一躍人気作家になる。
しかしその生活はホームズによって縛られていく。
どんなことがあってもホームズを書き続けなければならない。
ドイルが苦悩する間に妻ルイーズは病気になってしまう。
医者であるにも関わらず、
ドイルはルイーズの体調が悪いことに気付けなかった。
 
ホームズの呪縛から解放されたくなったドイルは、
小説の中でホームズを殺すことにする。
ところが読者の不満が爆発。
この頃、ドイルはルイーズが命にかかわる病におかされていることに気付く。
妻ルイーズに「書くのよ。ホームズは生きている」と支えられ、
ドイルは再びペンを執る。
ドイルの前に再び現れたホームズはペンの魔法でルイーズの病を治す。
ハッピーエンドだ。
 
まず初めに語りたい。
和希そらさん。
私が初めて一目惚れした男役さんでした。
「アナスタシア」のリリー役で一目惚れして、
調べたら男役でびっくりした。
男役の美学をストイックに追求する芯の通った歌声。
「関節の可動域どうなってる?」って聞きたくなる表現力豊かなダンス。
例えばフロホリでは歌詞に「花」が出てくるところ。
和希そらさんはその「花」のところで「花」をイメージする動きを手首で表現していた。
みんなと同じ振付なんだけど、その振付を完璧に守ったうえで「花」をどう表現しようかと考え、
この振付なら手首の動きをこう工夫すれば「花」の感じを出せるな、と踊っているのが伝わってくる。
「花」の解釈センスや、それを身体にトレースする再現性まで素晴らしい。
という感じで、「花」だけじゃなくて全ての歌詞の意味を拾ってダンスに反映させてくる。
もはやすごすぎて怖い。
…なんかこんなこと書いて逆に失礼な気がしてきた。
とにかくすごく好きと言いたいだけです。
舞台で唯一無二の存在感を放つ和希そらさん。
ご卒業おめでとうございます。これからも大好きです。
 
ボイルドドイルの感想に戻ろう。
彩風咲奈さんと夢白あやさんのデュエット「はじめての頁(ページ)」を聞いていたら、
初めて小説を書いた時のことを思い出してぼろぼろ泣いてしまった。
私にも初めて小説を書いた日があったということを、
彩風咲奈さんと夢白あやさんが思い出させてくれた。
 
思い通りには いかない夜 越え
果てしなく続く ように見えた
道の先へ
今日この日まで 僕を導き
連れてきたものは 運命じゃない
自分自身だ
(彩風咲奈さんの独唱「人生の主(あるじ)」より)
 
彩風咲奈さんもご自身でこの道を切り開いてきたからこそ、
鑑賞者の心を揺さぶる演技ができるんだと思う。
私はまだ何も成功してないけど、
彩風咲奈さんの演技に泣いた日を忘れずに努力していきたい。
 
ルイーズの病気を治したのはホームズの魔法であるかのように表現されていた。
でもあれは比喩的な演出なのだと思う。
ホームズはドイルに「僕は君だ」と言っていたから。
ルイーズを救ったのは魔法(運命)ではなく、
小説を書くことで成長したドイル自身なのだと思った。

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