#創作大賞感想 「執事はバッドエンドを導かない」

「執事はバッドエンドを導かない」
みなとせ はるさんの作品について感想を書いていく。
【連載小説】「執事はバッドエンドを導かない 」第一話(創作大賞2024・ファンタジー小説部門応募作品)|みなとせ はる (note.com)

ジャンルはファンタジー×ミステリ。
書いたことが現実になってしまうノートを持つお嬢様(レイラ)がいた。
ところがレイラはノートの力に気付いておらず、
まずいことにホラー&ミステリ小説を書くのが好きらしい。
そんなレイラの住む屋敷に何も聞かされていない執事(カイン)が派遣されてきて……という話。
物語はカインの視点で展開される。

この作品の魅力を3つあげるとしたら以下の通り。
①構成の上手さ
②ディティールへのこだわり
③魅力的なキャラクター

この3つを軸に感想を書いていきたい。

①構成の上手さ
お嬢様のレイラは、書いたことが現実になってしまうノート(以下「呪いの本」と表記する)を先祖代々受け継いでいる。
日常を変える圧倒的な力を持っているために周囲を翻弄させるが、
当の本人はそんなことにはまったく気付いていない。
これは谷川流「涼宮ハルヒの憂鬱」の構図に近いと思った。
誤解されないように先に書いておくと、パクリという話ではなく、
すでに「良い」と多くの人が認める型に近いものを採用することで、
物語の輪郭が親しみやすく「面白い」と感じやすいものにしている。
(ここは狙ったものではない気がする。あくまで私の読み方です)
また本作は学園ドラマではなく、中世西洋風の孤島を舞台としたファンタジー×ミステリだ。
王道の面白さを理解したうえでオリジナリティを加えるこの書き方は、
相当な読書家でなければできないと思う。
また、小説世界と小説世界で書かれる小説が交差するメタ構造が面白い。
呪いの本に書かれた物語と小説世界はなぜか完全に一致せず、その揺らぎがミステリになる。
この多難な世界で生き残るため、執事のカインは物語の揺らぎの謎を解かなければならない。

②ディティールへのこだわり
レイラは呪われた本にホラーやミステリを書くのが好きだ。
そしてレイラの書く小説に登場するのは、主人公カイン(執事)を含む使用人たちである。
レイラは書いたことが現実になるとは知らずに、
使用人たちが命の危険にさらされる物語を書いてしまうのだった。
殺害するとしたらどういう方法を採用したらいいだろう?
たとえば「毒殺」ひとつとっても、レイラはどんな毒を使えばいいか、よく調べて小説を書く。
作中作を書くレイラと、この小説の書き手が重なって面白い。
きっと作者のはるさんもレイラと同じように、ディティールにこだわって小説を書いているんだろうなと思った。

③魅力的なキャラクター
呪われた本を持つお嬢様レイラの住む屋敷には、カイン以外にも使用人たちが住んでいる。
レイラは家族や使用人たちを小説の登場人物としてホラーやミステリを書いてしまう。
書かれたことは現実になってしまうので大変だ。
毎日誰かが殺されかけるが、登場人物たちは死を回避しようとする。
コミカルに、シリアスに、個性あるキャラクターたちはレイラに翻弄されながらファンタジックな屋敷で暮らす。
殺人未遂を繰り返すお嬢様のレイラと、推理で死を回避していく執事のカイン。
2人が恋に落ちるとき、レイラの紡ぐ物語は、この小説は、どんな結末を迎えるのだろう。
きっと「執事はバッドエンドを導かない」。
そう信じて続きを読みたい作品だ。

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