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宝塚花組「うたかたの恋」レビュー

1年くらいの時差投稿。(書き溜めてあった)

「うたかたの恋」は宝塚で何度も再演されている人気公演だ。
この記事で紹介するのは2023年3月の花組公演。
 
原作はクロード・アネの小説「うたかたの恋」。
物語の中心となるのはハプスブルク皇太子のルドルフ(30歳)とその不倫相手の少女マリー(17歳)。
2人が心中した事件に脚色を加えてドラマに仕立てたのが「うたかたの恋」だ。
 
宝塚に詳しくない人のために言っておくと、
宝塚歌劇団には女性しかいないため、男性の役も女性が演じる。(男役と呼ばれる)
5つの組にそれぞれトップスターは2人いる。
男役のトップスターと娘役のトップスターだ。
宝塚の演目は基本的にこの2人がカップルを演じる。
ルドルフ役が花組男役トップスターの柚香光さん。
マリー役が花組娘役トップスターの星風まどかさん。

まず「うたかたの恋」の原作小説を読もうと思った。
ところが一番利用する図書館で探しても所蔵なし。
二番目に利用する図書館では奇跡的に所蔵していたものの予約待ちが20人。
買って読もうと思ったら最後に日本語に訳されたの昔すぎて絶版になってる。
出版社さまお願いします。売ってください……。
原作小説は入手できなかったので代わりに
仲晃「「うたかたの恋」の真実 ハプスブルク皇太子心中事件」を読んだ。
 
まず史実の確認からしていこう。
ルドルフの母はあのエリザベート(愛称:シシィ)。
この作品は栄華を極めたハプスブルク王朝の話になる。
皇太子ルドルフは父でオーストリア皇帝のフランツ・ヨーゼフ。
ルドルフは父がなかなか帝位を譲ってくれないことに病んでた。
そのために様々な女性と交際することで気を紛らわせることになる。
ステファニーという妻がいたけど関係は冷えていたらしい。
ルドルフは高級娼婦のミッツィ・カスパールのことが好きだったんだろうと個人的には思うけど、心中相手に選ぶのはマリー・ヴェツァラ男爵令嬢だ。
30歳の皇太子と17歳の不倫相手がウィーンの森で心中。
ルドルフはマイヤーリングの狩猟別荘でマリーを銃殺し、遺体を綺麗に整えると、自らも同じ方法でこの世を去った。
なかなかセンセーショナル。
(ちなみに「マイヤーリング」のタイトルでバレエ作品にもなっている)
 
次に公演プログラムを買った。
以下、ストーリーの詳細。
舞台は1889年1月26日、ウィーンにあるドイツ大使館から始まる。
構成としては序盤が心中の日、そこから過去の回想に入り、終盤で心中の日にかえってくる。
つまり物語の大部分は回想にある。
その回想部分について書く。
史実の方では登場しなかったルドルフの従兄弟ジャン・サルヴァドル(水美舞斗さん)が登場。
ジャンは平民の娘を恋人にしているハプスブルク家の人物で、ルドルフと対照的に描かれる。
ルドルフ(柚香光さん)は男爵令嬢マリー(星風まどかさん)に出会う。
ルドルフとマリーの出会い→ルドルフはステファニーと離婚しようとするがローマ法王が許さない(カトリック信者は離婚できないのだ)→ルドルフの離婚未遂を知ったルドルフの父フランツ・ヨーゼフはブチギレてマリーを修道院に送ろうとする→ルドルフの母エリザベートは情けをかけ、ドイツ大使館の舞踏会でもう一度ルドルフとマリーが会えるように力添えする。
これが回想部分のおおまかな流れ。
回想をサンドイッチするバケットの部分はその舞踏会の日(1889年1月26日)。
 
プログラムの方は恋愛だけではなく政治面も扱っているのでこちらも追っていきたい。
宮廷内での権力を手に入れたいフリードリヒ公爵(羽立光来さん)はルドルフを排除しようと試みる。
まずゼップス(自由主義新聞を発行している)と皇太子の密会を警視総監に報告。
従兄弟のジャンが自由主義に傾倒していたこともあり、ルドルフは自由主義者と協力して武力革命を企てているという疑惑をかけられるようになってしまう。
 
この物語にはジャンの他にルドルフの従兄弟がもう1人登場する。
フェルディナント大公(永久輝せあさん)だ。
フリードリヒは次にフェルディナントを利用する。
(フリードリヒが叔父、フェルディナントが甥の関係)
フェルディナントにもまたソフィーという身分違いの恋人がいる。
フリードリヒはフェルディナントに「皇帝にならなければ恋人との未来はない」と言う。(→のちに第一次世界大戦の引き金となったサラエボ事件の犠牲者はこのフェルディナントとソフィー夫妻だ)
終盤、ルドルフとマリーが心中しようとしていることも知らずマイヤーリングの狩猟別荘に現れたフェルディナントは
「フリードリヒの命により、反乱軍の指揮をとった疑いで逮捕する」
とルドルフに告げる。
直後、ルドルフとマリーは心中をとげる。
 
なかなか複雑な構成のミュージカル。
たぶん初見で物語の筋を追うのと出演者の魅力を堪能するのを同時にやろうとしたら目と頭が足りなくなるので予習してよかった。
ちゃんと予習して行ったけど美術も衣装も人も素敵なあまりに呼吸忘れて体調悪くなりかけた。
個人的若手MVPは愛乃一真(まのかずま)さん。
これから絶対来る。
特にミッツィの愛の歌の場面、オペラグラスとって(これ歌ってるの誰!?)って舞台上探してしまった。
公演プログラム見た時から期待の新星という感じがすると思ってたけどあの存在感、間違いないわ。頑張ってほしい。
 
幕間をはさんで第2幕はアンシャントマン!
もちろん柚香光さんのオードトワレをつけていった。
ペンキが飛んだようなお洒落なジャケット、見た瞬間「これミューレボのジャズセンセーションで彩風咲奈さんが着てたやつだ!!」と思った。
あのジャケットすごい好きだから一瞬でわかった。
衣装同じでも演出違うと「違う世界線のタカラヅカ」感が出る。
彩風咲奈さんも縣千さんも綾凰華さんもいないけど間違いなくタカラヅカだ。すごい。
 
「うたかたの恋」は構成がとても複雑なうえにバッドエンドだけど、何度も再演される不思議な魅力のある作品だった。
静謐な愛を暗く、しかし同時に輝かしく魅せる舞台だと思う。


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