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妄想蟷螂劇場

玄関先に屈んで鉢植えに水を加えていると、妙な心持ちになった。

立ち上がり、屈んで居た場所から少し離れる。

違和感の跡を辿る。地面、素焼鉢、土、植物と順に目線を上げていくと、その奥にある葦簀の真ん中に、葦簀と一体化した枯れた色の蟷螂が、しがみついていた。

掛けっぱなしの葦簀はすっかり乾き切っていて、蟷螂は合わせたように同色である。そっと近づきあらゆる角度から、無遠慮に、見る。毛羽立った細い足のつき方、目の球形、その中の黒目の小ささ、尻から胴の膨らんだカーブ。枯れた蟷螂は細い足でしっかり葦簀にしがみつき、微動だにしない。

断りもなく眺めきり、満足した私が、ふふん、と足元をに目線を落とした先には五号のアロエ鉢がある。水を吸ったアロエの葉は、艶艶に硬く膨らんで、緑色を際立たせている。つるりとした葉の膨らみに触れたくなり、屈んで、手で伸ばして気づく。

葉の上には葉の質感に似た緑色の蟷螂が居る。緑の蟷螂は、首をこちらに向け、私を見ている。近づこうとすると、身体を傾けて鎌を上げる格好になる。威嚇しているのだ。

ググッと持ち上げるその鎌はいかにも重たそうで、これは一撃でやられる、と思う。
蟷螂より私が大きくて良かった。相手はこんなに小さいのに、私は完全に狩られる方なのだ。

威嚇されないように鉢の真前を避けて、部屋に入り、やりかけの仕事に戻る。仕事が、身体に馴染んでいくのに時間がかかっている。集中力がお腹まで沈んでいかず、胸のあたりでふわふわしている。
二匹の蟷螂が気になって仕方ない。

後日、この話をすると、知人は言った。

「まるで頭の病気だね。見てしまったら居ても居なくなっても気になっているんでしょう。知恵熱が出そうな暮らし方だよ。」

玄関先には二匹の蟷螂が居る。

枯れた蟷螂はしがみつき動かない。
緑の蟷螂は鎌を上げて身体を傾けている。
私は真っ直ぐに立ち、音を立てないように後ろ手に玄関戸を閉め、そこに加わる。

濃く鋭い、小さな影二つ。その横に、薄ぼんやりした大きな影が一つ。

乾いた日差しは、地面を照らし続けている。











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